HIV/エイズガイド

社会福祉を専攻する大学3年生のブリ君がいろいろな人と出会って、
聞いた、HIV/エイズをめぐる7つの話。

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第5話いろいろあるよ、HIVポジティブを支える社会制度

サワラ君
サワラ君

ブリ君がよく行くゲイバーで知り合ったゲイの友人。ブリ君より少し年上で、リーマンとして働いている。

ブリ君
ブリ君

大学3年生、ゲイ、21歳。先行は社会福祉だが、勉強はあまり好きではない。クラブは水球部。ガチムチ気味。

障害者手帳や医療費助成など福祉制度の紹介

ブリ君

気持ちいいねえ、たまに新宿御苑とか来ると。それに、都心のど真ん中にあるこんなに緑の多い場所が、入園料たった200円だもんねー。でもサワラ君、さっきチケット買わないで、なんか茶色いものを係の人に見せてゲートを通っていたね。

サワラ君

ああ、ブリ君は僕がHIVポジティブだってこと知ってるから言うけど、僕は障害者手帳を持っていて、こうした公共施設の料金が免除になる場合があるんだ。

ブリ君

そういやサワラ君が突然入院してエイズ発症ってわかって、もう1年だよね。退院して、けっこう元気になってよかったー。

サワラ君

そのせつはブリ君にも何度もお見舞いに来てもらったりして、お世話になりました。

ブリ君

ねえねえ、エイズ発症とかしちゃったんだから、もう毎日薬とか飲んでるんでしょ? 病院代とかどうしてんの? その障害者手帳とかもそれに関係してるんだろうし。

サワラ君

そうだよ。じゃ、せっかくだから、僕らHIV陽性者が利用している福祉制度のこととか話そうか。あそこのベンチ行こ。

ブリ君

そっだね。あ、ちょっと待って。缶ジュース買ってくるから。

障害者認定と自立支援法で医療費を助成

サワラ君

病院に行ったら、健康保険証があれば、多くの人が医療費って3割負担じゃん。それは知ってるよね。

ブリ君

わかるー。

サワラ君

もし風邪引いて近所のお医者に行って、診察して、注射打って、薬もらって、1万円だったとしても、窓口で払うお金は3割だから3千円。残りは健康保険が払うんだよね。

ブリ君

会社の健康保険や共済組合、会社じゃない人は国民健康保険が負担してくれる。

サワラ君

HIV感染症という病気だって、病院にかかれば健康保険で3割負担なのはおなじことさ。まだ薬を飲んでない人なんかは、診察代や検査代ぐらいなんで、その医療費の3割を払っている人もいるよ。

ブリ君

へーえ。HIVに感染したらものすごくお金がかかるのかと思ってた。

サワラ君

それは薬を飲むようになってからの場合さ。定期的な服薬でウイルスが増えるのを抑えるのが、この病気の治療の中心だということは知ってるよね。その薬が、ひと月に約20万円ぐらいかかるんだ。しかも、糖尿病や血圧の薬みたいに、ずっと飲みつづけないといけない。

ブリ君

えっ、毎月ニジュウマンエン、しかもずぅーっと??

サワラ君

それの3割っていったら6万円で、それを毎月払うことなんて不可能じゃん。それで現在、HIV感染者は障害者(内部疾患)に認定されていて、障害者手帳が出るんだ。エイズを発症したと診断されたり、定期的な血液検査での数値が基準を満たしたら、主治医の診断書などを添えて、自分の住んでいる市区町村に障害者手帳の申請ができるんだ。

ブリ君

障害者認定がされると、どんな福祉サービスが受けられるの?

サワラ君

まず障害者自立支援法という法律によって、医療費の助成が受けられるよ。HIV感染症の治療にかかる医療費が3割ではなく1割負担になり、しかも前年の世帯所得におうじた限度額(月に0円、2500円、5千円、1万円、2万円の5段階)以内ですむんだ。シングル(単身世帯)で暮らしているサラリーマンの平均的な収入水準だと、20万円の3割の6万円が、1割負担で2万円で、それが自立支援法によって1万円の月限度額になると思うし、僕も病院では1万円の支払ですんでいるんだ。知ってるフリーターの子は5千円だったりする。

ブリ君

月6万円からすれば1万円はだいぶ助かってるけど、でもやっぱり大変だよね。

サワラ君

いま、薬は90日処方ができるようになって、僕も状態が安定していて主治医が理解してくれているので、90日分まとめて出してもらって、ほかの月には病院に行ってないんだ。だから月平均3333円というとこかな(笑)。

ブリ君

手帳があるとほかにもどんな福祉サービスが利用できるの。

サワラ君

自立支援医療は国の制度で、その病気にたいする、指定された病院での支払いへの助成だけど、おなじく国の制度だと、所得税の申告をするとき障害者手帳があると障害者控除が受けられて、年額で2万円ぐらい税金が安くなるので、会社で年末調整のときに障害者だということがわかってもいいならそれを利用する人もいるね。また、国ではなく自治体の制度だと、障害者への医療費助成制度を設けて、HIV感染症以外の病気の受診についても医療費負担が安くなる自治体がある。そのほか障害の等級によって福祉手当が出たり、タクシー券や公共交通の無料パスが出たり、博物館や体育館・プールなどの公共施設が無料になったり、自治体によって異なるけれども、いろいろなサービスが用意されていることもあるから、自治体発行の福祉の手引きなどでよく確認することだね。

障害者手帳によるサポート以外では……

ブリ君

病院代がいろいろ助成されていることはよくわかったよ。サワラ君はほかにも利用している福祉制度とかないの?

サワラ君

僕は会社につとめていて、体調をくずして入院してエイズ発症がわかったじゃん。3か月入院して会社を休んだわけで、当然、有給は使い果たしてる。そんなときは、会社の健康保険から普段の給料の3分の2が、「傷病手当金」として支給してもらえるんだ。まあ、フリーターなんかで国保の人はそういう制度はないんだけど。

ブリ君

もしもそのとき会社を辞めていれば?

サワラ君

雇用保険、いわゆる失業保険から求職中はお金がもらえるよね。これはハローワークで相談だ。

ブリ君

障害年金というのも聞いたことがあるよ。

サワラ君

これは障害者手帳の制度とはべつで、国民年金や厚生年金による制度なんだ。年金って、65歳以上になってもらう「老齢年金」だけじゃなくて、それまでにも交通事故とか病気で障害者になって収入が得られなくなったときに支給される「障害年金」という制度もあるんだ。HIV感染症が進んで働くことができなくなったときとか、発症の予後があまりよくなくて障害が残ったりで支給されている人もいるね。
将来、障害年金をもらうためには、その病気の初診日に年金に入っていて、その前々月までの1年間に保険料の滞納がないか、または保険料納付期間の3分の2以上納めていることが必要なんだ。

ブリ君

でも、不安定なフリーターなんかで収入も途絶えちゃって、いま言ったような制度も使えなかったら、どうするんだろ。

サワラ君

最後の手段、じゃないけど、生活保護を申請することだね。最近は生活保護の支給がものすごく厳しくなっているし、支給されてももちろんラクな生活ができるわけじゃないけど、生活保護を受けながら、自立と再出発の道を模索するわけだ。

サポート制度を利用しつくすコツ

サワラ君

どう、僕らが実際に受けている福祉制度について、だいたいわかった?

ブリ君

医療費もある程度は個人負担があるけど、それでも大部分は公費で助成してもらえることがわかって安心したし、生活面でも生活保護まで考えればなんとかなることがわかったよ。でも、ここで心配が!

サワラ君

なになに?

ブリ君

医療費が助成されるのはいいけど、どこの病院になんの病気でかかってるかって、会社にバレたりしないの?

サワラ君

そうだね、それは僕も心配したよ。会社の健康保険を使っている人は、病院から健康保険の担当者へ医療費の請求が行くわけだけど、僕の会社では、何病院の何科でかかったとかの情報が行くだけで病名までは書かれていない。健康保険組合によってまちまちのようだけど、健康保険業務に携わる人には守秘義務があるから、たとえ知ったとしても、それをほかの部署の人に漏らすことは禁止されているんだ。万一、HIVを理由に解雇とか退職勧奨なんてあったら、それこそ大変なことで、厚生労働省の通達とかで厳重に禁止されている。いまのところ僕にも、困ったことは起こってないよ。

ブリ君

そうなんだ。それは安心だね。

サワラ君

でも、障害者手帳などは自分の住んでいる市区町村の窓口で申請するんで、地方なんかで窓口に知りあいがいるなんて場合、とてもじゃないけど申請できないっていう話も聞いたことがある。もちろん役所の人にも、守秘義務があるわけだけど……。

ブリ君

いろいろな制度があるようだけど、サワラ君はみんな自分で調べたり申請したりしたの?けっこう複雑だしむずかしそうだよね。

サワラ君

ハハハ、さすがに僕だってシロウト、そんなことは無理だよ。僕の場合、病院の医療相談室とかにいるソーシャルワーカーさんにいろいろ教えてもらったり、あとNGOの講座や資料で勉強したり、相談を利用したりしたよ。福祉制度は、基本的に申請主義と言って、こちらから申請しないかぎり利用できないんだ。黙っていても自動的に届けてくれるわけじゃない。でも、自分で調べたりすれば、相談に乗ってくれたり手伝ってくれる専門家やNGOもたくさんあるし、制度もそれなりに整ってきているから、そんなに恐れるには足らず、ってことかな。

ブリ君

なんだか安心したよ。これで僕も、いつ感染しても大丈夫かな。

サワラ君

おいおい、ヘンなこと言わないで。福祉制度は国民の権利だけど、利用しないですむならそれに越したことはないんだから!

第5話のまとめ

医療費の助成の目安

  • 薬をまだ飲んでいない人
    ふだんの診察や検査には健康保険で3割負担 入院等の場合、高額医療費の制度がある(月額の上限を越える分が返ってくる)
  • 薬を飲みはじめた人
    障害者手帳と自立支援医療による医療費の助成

HIV感染症の医療費助成以外

  • 自治体ごとのさまざまな福祉サービス
    各自治体の福祉窓口で相談や申請

収入の助成

  • 税金の障害者控除
    年末調整や確定申告のさいに申請
  • 傷病手当金
    健康保険による療養中の収入保障(会社の健保の人)
  • 雇用保険
    失業中の収入保障(雇用保険に入っていた人)
  • 障害年金
  • 生活保護

相談や申請の窓口とサポートしてくれる人

  • 自治体の福祉窓口、ケースワーカー
  • 会社の健康保険、厚生年金の担当窓口
  • 社会保険事務所
  • 病院のソーシャルワーカー、コーディネーターナース等
  • NGO

活用の心得

日本の福祉制度は申請主義
自分で申請しないかぎり、自然には与えられない
資料、相談、専門家等を活用して、自分になにが使えるかをリサーチしよう