HIV/エイズガイド

社会福祉を専攻する大学3年生のブリ君がいろいろな人と出会って、
聞いた、HIV/エイズをめぐる7つの話。

上へ戻る

第7話まだまだ奥が深い、HIV感染症とその周辺

ココロ
ココロ

ブリ君の大学の保健センターのカウンセラーで、学生相談などに応じている臨床心理士。 ニューヨークへの留学経験もありゲイ慣れしている。 悩みもないのにブリ君はたまに遊びに行っている。 気っ風の良い姉御肌のノンケ女性。

ブリ君
ブリ君

大学3年生、ゲイ、21歳。先行は社会福祉だが、勉強はあまり好きではない。クラブは水球部。ガチムチ気味。

メンタルヘルスや各種の依存症など、HIVとも関わりのある課題の紹介

ブリ君

きょうは大学の保健センターでHIVの講演会があるって言うんだけど、ええと、「講演会 HIVをとりまく諸問題」か。「しょ問題」って、なんなんだ??

ココロ

こんにちは、ブリ君。講演、聞きに来てくれたのかな?

ブリ君

あ、カウンセラーのココロさん、こんにちは。このあいだの「五月病にひたりきる そんなに元気でなくたっていいじゃない、人間だもの」講演会、おもしろかったですよー。

ココロ

あら、逆に元気になれて、よかったわね(笑)。

ブリ君

ところで「HIVをとりまく諸問題」って、なんです?

ココロ

HIVの感染が広がっている背景には、いろいろなものがあるわ。たんにHIVについての知識がなかったとか、セーファーセックスのやり方を知らなかったというわけじゃなく、知識があったりセーファーなやり方を知っていても、それが実行できなかったり、ときにはみずから進んで「危険」とされるセックスに身を投じてしまう人もいるの。それはなぜなのか、を考えてみるのがきょうのお話よ。

ブリ君

セーファーセックスの知識があるだけじゃ、十分じゃないんですか?

ココロ

ゲイの人たちはHIVの影響を受けやすい人たちだということも言われているわね。それは、君みたいなゲイの人が置かれている社会的状況とも深く関係しているみたいなのよ。

ブリ君

へえ、どういうこと?

自分を肯定しにくい社会では、セーファーセックスもできにくい

ココロ

ブリ君はわりとゲイだということをオープンにしているけど、そういうゲイのお友だちは多いの?

ブリ君

僕なんかはめずらしいよ。積極的にオープンにしてる人は少ないし、家族には言えないという人も多いよ。まだまだ「ゲイ」だと言うとヘンな目で見られるだろうし。僕も大学だからオープンにしてるけど、これが就職して会社だったらどうかな。

ココロ

ゲイやバイセクシュアル男性のメンタル面について、1999年から行なわれているインターネット調査があるの。それによると、ゲイ・バイ男性のさまざまな性行動とともに、「ノンケを装うことのしんどさ」「学校時代のいじめや孤立感」など、そのメンタル面が浮き彫りになったそうよ。それから、調査参加者の65%が自殺を考え、15%前後が自殺未遂の経験があり、ほかの回答者とくらべて「精神的ストレスが強い」人は2.1倍、「ホモ・おかま」など言葉によるいじめにあった人は1.6倍、自殺未遂をしたことがあるという回答も得られているそう。

ブリ君

え、そんなに?

ココロ

その調査によると、同性愛について約8割は学校で一切習ったことがなく、15%は否定的な情報か「異常なもの」との教育を受けていたという結果も出ているわ。

ブリ君

たしかに中学のときの担任がウケねらいで、「ホモネタ」を冗談で言ってたことがあったなあ。ああいうときは、僕も教室で孤立した感じがした……。

ココロ

この調査を行なった宝塚大学の日高さんは、「強い偏見を受けて自分を肯定できず、自暴自棄的な感情をもつことが、コンドームをつけるなどのHIV感染予防を消極的にさせる面がある」とコメントしてるの。

ブリ君

HIV感染予防は、社会全体のゲイにたいする偏見や、学校教育のことから考える必要もあったんですねえ。

「依存症」という病とHIVとの関係

ココロ

HIV感染症は、このほかにもいろいろなこころの問題と関係があるのよ。

ブリ君

いろいろなこころの問題……?

ココロ

たとえば、アルコール依存症や薬物依存症。薬物では、ひところまで合法ドラッグと呼ばれていたいわゆる脱法ドラッグとかセックスドラッグは、数年前から規制の対象になったんだけど、依然使用している人はいるし、それから覚せい剤を使っている人も目につくわね。

ブリ君

HIVとドラッグがどう関係するの?

ココロ

覚せい剤では注射の回し打ちによる感染危険があります。たとえあぶりで吸引していても、判断力が低下した状態でセックスすれば、セーファーセックスへの意識が飛んでしまう。それはいわゆるセックスドラッグも同じね。しかし、こうした薬物への依存も、薬で自分のなかの空虚感を埋め合わせる気持ちから手を出してそのまま依存していった人もいるかもしれない。そういう人には、「ダメ。ゼッタイ。」と禁止するだけでは充分じゃなくて、薬に手を伸ばさざるを得なかったその人の人生全体に目を向けることが必要でしょうね。

ブリ君

ふむ。アルコール依存症というのも、やはりおなじ?

ココロ

ブリ君の回りには、飲むといつもべろんべろんになるまで飲んで、道で寝てしまったりする人いない?外で潰れるのは回りの人も気づくけど、家で飲んでいたら、わからないことも多いわね。そういう人はお酒に強いんじゃなくて、やっぱりお酒の飲み方がヘンなの。それは、もしかしたらアルコール依存症かもしれない。

ブリ君

セックスへの依存とか、人との関係への依存、つまり「しがみつき」とか「ストーカー」というのも、こうしたこころの問題の一つかもしれないですね。

ココロ

そうした場面のなかでセックスがからんできたときに、セーファーセックスが二の次になったり、あえて危険なセックスをしようとしたりすることがあるわけね。

おなじ境遇にあるものどうしの自助グループ

ブリ君

こうした依存症って、治す方法とかあるんですか?

ココロ

なかなか一筋縄ではいかなかったり時間がかかる場合も多いけど、長年、断酒・断薬を続けて、生活を立て直した人もたくさんいるわ。まず、専門のお医者さんにかかることが必要。依存症になると、同時にうつ病になったり不安の症状が出ることもあるし、体にもいろいろと支障が出てくることもあるから、信頼できるお医者さんにかかってちゃんと診てもらうことが大切ね。依存症を専門にしている医療機関もあるし、地域の保健所や精神保健福祉センターでは、精神保健についての相談窓口を設けていたりするから、そういうところを利用してみるのも手ね。

ブリ君

「せいしんほけんふくしセンター」って?

ココロ

あ、ごめんごめん、ブリ君、「精神保健福祉論」の単位、落としてたわね(笑)。都道府県、政令指定都市にだいたい一つずつ設けられている精神保健福祉の拠点となるセンターのことよ。

ブリ君

「単位落としてたわね」は余計だよー。

ココロ

医師や相談員がセクシュアリティについて理解があるかどうか気になる場合は、NGOの電話相談などを利用して安心してかかれたり相談できるところがないか、情報を集めてみてもよいかもね。

ブリ君

治療はやっぱり薬とかカウンセリングが中心ですか?

ココロ

そうね、それも大切。それと、依存症はこれまでの生き方に根ざしている部分も大きいから、おなじように依存症を抱える人たちが集まって、お互いの経験を話したり聞いたりして、自分がこれまで「棚上げ」にしてきた問題を「棚卸し」するミーティングが各地で開かれているわ。そうしたミーティングのことを、自助グループと言います。

ブリ君

セルフヘルプグループ、ですね。

ココロ

そういうミーティングに出つづけながら、「自分は依存症だ、だけどその依存症からなんとか回復したいと思っている」、そのことを何度も何度も意識する機会をもって、お酒を飲まないでいる状態、薬を使わないでいる状態を一日でも長くつづけていくようにするわけ。ミーティングの情報はNGOや保健所、それからコミュニティセンターなどで集められるわ。(第6話参照)

ブリ君

結局、依存症から回復するのは自分であり、それを手助けできるのも、おなじ依存を経験した仲間というわけですね。
あ、そうだ。うつ病というのも、最近多くないですか?僕の回りでも、抗うつ薬を飲んだり、うつで会社や学校を休んだりしてる人もいる。先週も、最近顔見ないなって思ってた友だちからひさしぶりに連絡がきたら、「うつで病院通いしてる」って言われて、びっくりしました。ふだんめっちゃ脳天気なヤツなんだけど。

ココロ

どんな性格の人でもうつ病になることはあるのよ。仕事の能率が落ちたなとか、人と会うのが億劫だなとか、朝起きたときの気分がすごく憂うつだとか、そういう状態が続いたら要注意。眠れなくなったり食欲が落ちて食べられなくなったりしたら、精神科や心療内科に早めに受診したほうがいいわね。抗うつ薬がよく効いてよくなる場合も多いのよ。もちろん、学生さんなら大学の保健センターに相談に来てもらってもいい。カウンセリングを受けて、マイナスに考えやすい自分の考え方のクセを直したり、じっくりと自分の人生を見つめ直してみることも助けになる場合もあるわ。
HIVとの関係で言うと、感染がわかって自分の人生を悲観したりしてうつ状態になってしまう人もいるの。そういう人にも、その人の今後の人生を一緒に考える人が、友人でもNGOでもカウンセラーでも、だれかそばにいるといいんだけど。

ブリ君

なるほど、わかりました。

ココロ

いま、HIVにかかわる人のあいだでは、こうした依存症とかメンタル面の問題がとても注目されるようになっているし、アルコールや薬物などにかかわる人も、セックス面での問題に気づく人も増えているの。お互いがそれぞれの領域でタコ壷化しないで、HIVについての理解も共有して連携していこうという動きが始まってきたのよ。

ブリ君

あ、そろそろ講演会だ。行かなくちゃ!

ココロ

君はもう行かなくていいわ。きょうの講師はじつは私で、いま話したようなことをこれから話す予定だったから(笑)。

第7話のまとめ