HIV/エイズガイド

社会福祉を専攻する大学3年生のブリ君がいろいろな人と出会って、
聞いた、HIV/エイズをめぐる7つの話。

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第4話HIV感染症では、どんな治療を受けるのかな?

藪井
藪井

ブリ君の近所の藪井クリニックの医師。ブリ君一家のホームドクターとして、小さい時からブリ君のことは知っている。

ブリ君
ブリ君

大学3年生、ゲイ、21歳。先行は社会福祉だが、勉強はあまり好きではない。クラブは水球部。ガチムチ気味。

HIV感染症の治療方法、病院やお医者さんとのつきあい方

ブリ君

そうかー、イワシ君、HIVに感染してたのかぁ。きのう呼び出されて深刻な顔するから、なんかなって思ったら、そういうことだったのか。増えてんだなあ。僕が知ってるだけでも4人いるもんなぁ……。でも、いまは薬もできてるし、パンフレットなんかにも「いままでと変わりない生活ができます」なんて書いてるし、大丈夫なことは大丈夫なんだろうけどね。まあ、昔みたいにいい薬がなくて、つぎつぎ亡くなっていく時代じゃないのはありがたいや。もし僕が感染しても、薬飲んでれば大丈夫、かな?

藪井

これこれブリ君、医学の進歩はたしかじゃが、かといってそれほど甘い話でもないのじゃぞ。

ブリ君

わっ、って、突然現れたと思ったら、うちの近所の薮井クリニックの薮井先生!子どものときからお世話になってるけど、先生が出すカゼ薬って効いたタメシがないんですけど。

藪井

なにを言う。君のおたふくカゼもはしかも、みんなわしが診てやったじゃろうが。

ブリ君

そんな昔のことを言われても……ぶつぶつ。

藪井

それよか君は、HIV感染症はもう薬があるから大丈夫と考えておるらしいな。それはたしかにそうじゃが、半分正しくて半分違っておるぞ。

ブリ君

へえ、先生、HIVのこととかわかるんですか?

藪井

わかるんですか、とはお言葉じゃのう。よし、わしも医師のはしくれ、このさいHIV感染症の治療法や現場について、君に話してしんぜよう。

効果を上げた多剤併用療法 免疫の状態に応じて服薬開始

藪井

まずブリ君に聞こう。HIV感染症とは、そもそもどういう病気じゃな?

ブリ君

ええと、HIVというウイルスが体内でどんどん増えて、人間の免疫力が下がって、通常ならかからないような病気にかかって、放っておくと最後には亡くなっちゃう。

藪井

そのとおりじゃ。では、その考えを押し進めて、君ならそれをどう治すかな?

ブリ君

なんでそんな難しいことを言うの!もー。とりあえずHIVが増えたらよくないようだから、HIVを体から追い出す。

藪井

エラい!これまたそのとおりじゃ。ただし、いまの医学では、いったん体に入ったHIVを取り除くことはできんのじゃ。しかし、HIVが増えるのを抑える薬はある。通常、何種類かの薬をあわせて飲むことで、ウイルスが増殖するさいのメカニズムを攻撃して増殖を抑え、精密な検査でも検出がむずかしいぐらいの数にまで封じ込めることができるんじゃ。ウイルスを抑えこめば、そのために低下していた免疫力も回復して、通常の生活を送れるというわけじゃな。1996年ごろから一般的になった、複数の薬を一緒に飲むこの治療法を、多剤併用療法と言うんじゃ。「カクテル療法」などとも呼んでおったな。これによって状態が進んだ人も回復が可能になり、エイズによる死亡数が激減したというわけじゃ。

ブリ君

すごい。えーっと多剤なんとかだっけ? そういう時代に生まれて、しあわせだね。

藪井

たしかに多剤併用療法が始まったときには、計算のうえでは体内のウイルスをすべてなくすることができるとまで考えられたのじゃ。だが、検出限界以下になった人も薬を止めると、やっぱりウイルスが増えてくる。どこか薬が届かないところに隠れているウイルスもいるようじゃな。それに、薬を飲むと簡単に言うが、毎日ほぼ100%で飲みつづけなければいけないのじゃよ。

ブリ君

治るわけじゃないんだね。

藪井

そうなんじゃ。それでな、血液検査でウイルスの量と、CD4というリンパ球の数値をはかって免疫力を調べて、それぞれがある基準を切ったら薬を飲みはじめるというわけじゃ。

ブリ君

僕の友だちの陽性の子も、まだ薬は飲んでないけど、病院には行ってるらしいよ。血液検査に行ってるんだね。

飲み続けることや副作用 他の病気との兼ね合い

藪井

HIV治療のあらましは、だいたいわかったかな。

ブリ君

薬はウイルスの増殖を抑える働きということもわかったし、すぐに薬を飲みはじめるとはかぎらなくて、まずは血液検査のウイルス量とCD4の値を見ていくこともわかりました。治療はどこの病院でも受けられるんですか?

藪井

いやいや、ほとんどの病院は、HIV感染症の治療は経験がないだろうし、陽性者とのつきあいにも慣れてはおらんじゃろう。現在、全国にエイズ拠点病院が指定され、その中心として東京の国立国際医療センターにエイズ治療・研究開発センター(ACC)が設置されている。だが、エイズ拠点病院であっても、診療経験は病院によってまちまちで、医療レベルに差があるのは事実なんじゃ。だから、はじめて受診する場合は、NGOなどに相談して病院ごとの「評判」を聞いてみることも必要じゃな。

ブリ君

治療法があるといっても、病院の体制にはいろいろ課題もあるんですね。

藪井

一方、薬のおかげで死亡率が格段に下がったのは事実じゃが、いったん飲みはじめたら毎日休むことなく飲みつづけることは、言うほどかんたんなことではないぞ。いまでこそ1日1回ですむ組み合わせも出てきたが、朝夕2回など、どちらかは会社で飲む場合などには、みんなに隠れて飲んだりするのに苦労する人もおるそうじゃ。

ブリ君

もし僕が、「あれ、ブリ君、何か薬飲んでるようだけど、どっか悪いの」と聞かれたら、「うん、僕、エイズなの」って、……そんなこと言えるわけないでしょ!

藪井

それでも日本では、ちゃんと薬を飲み続けてそれまでと変わらない生活をしている陽性者がたくさんおる。それに、検査に出てこないくらいウイルスを抑え続けていると、セックスで相手にうつらないくらいになると 言われているのじゃ。

ブリ君

薬を飲み続けるって、いろんな意味で大事なんだね。

藪井

その通りじゃ。それから普段の生活以外にも、こんなことがある。

ブリ君

なるほどねえ。

藪井

わしゃまだなにも言うとらんぞ。つまりHIVをもっとる人も、ほかの病気もするじゃろう。そのときかかったお医者さんに、「私、HIVの薬飲んでます」と言えるかじゃ。

ブリ君

あっ、そうですね。うちのおやじ、高血圧なんで、毎日、血圧の薬飲んでるけど、飲み合わせとかありますよね。でも、近所のクリニックで血圧の薬もらうのに、いちいちHIVのことまで言うの、なんか抵抗あるよね。

藪井

HIVというと若い人の病気というイメージがあるかもしれんが、多剤併用療法が始まって十数年がたち、当時の「若者」もいまはりっぱな中年になっとるし、当時の中年のなかには介護が必要になっている人もすでにおる。HIVをもちながら、生活習慣病などとも共存していかなくてはならんのじゃ。HIVをもちながら長生きできるようになったことはいいことじゃが、HIV感染症のことだけ心配しておればいいというわけにもいかなくなったのぉ。だれもが年相応にかかる病気を診るのは、町のクリニックのお医者さんということになるが、やはりエイズのことも少しは知っておかなくちゃいかんという時代が来るかもしれんな。

医療の主人公は患者本人 医師や看護師をよきパートナーとして

ブリ君

薮井先生、いろいろ教えてくれてありがとうございました。じゃ、さよならー。

藪井

おいおいブリ君、いまわしが話したようなことだけで、ちゃんとHIVの治療が受けられるかな?

ブリ君

え、どういうこと?薬もあるし、それを飲みつづければ、基本OKなわけでしょ?

藪井

やっぱり大事なことがわかっておらんようじゃな。なるほど、君を診察したり薬の処方箋を書いたりするのは医者の役目じゃが、最終的に薬を飲むかどうかを決めるのは、あるいはどんな治療をするかを決めるのは、患者さん本人であって、けっして医者が決めたり押しつけたりするものではないんじゃ。いままで飲んでいる薬の効きが悪くなって、薬を変更するときだって、決めるのはやはり患者本人。医者に言われたから、看護師に怒られるから、薬を飲みます、病院に来ますでは、いつかかならず嫌になって、せっかくの治療も中断してしまうじゃろう。そうなったとき、不利益をこうむるのは患者さん本人じゃ。

ブリ君

なんかむずかしそうな話ですね。つまり、どうしたらいいんだろ。

藪井

こうした一生にわたってつきあっていく病気は、あくまでも患者さん本人が主人公だということじゃよ。お医者さんによく説明をしてもらい、納得をしながら治療を進めること。こちらもいろいろ調べて、よく質問をし、理解できるまで説明してもらうことじゃ。ときには主治医以外の医者を訪ねてセカンドオピニオン(2つ目の意見)をもらうことも大事じゃな。

ブリ君

そうですね。親戚のエイ三郎おじさんがガンになったとき、おじさん、ずいぶん本とか集めて勉強して、医者にいろいろ聞いていたみたいだけど、HIVだっておんなじですよね。

藪井

エイズ関連の本は残念ながらいま少ないし、あっても内容が古いことも多いから、ネットなどで最新の情報を収集したり、NGOの講座や患者会などで情報を収集して、積極的にお医者さんに聞いてみることじゃ。お医者さんは専門家ではあるが、患者さんの指導者ではない、あくまでも治療の道をともに歩むパートナーなんじゃからな。

ブリ君

はーい。肝に銘じます。

第4話のまとめ

HIV感染症治療の原則

血液検査で血中のウイルス量とCD4の値を調べる

基準値に達したときには、服薬を開始

抗ウイルス療法

ウイルスの増殖を抑える薬を服用(多剤併用療法)
ウイルスを検出限界以下に抑え、CD4を回復させる

治療や薬の問題点

副作用
半永久的に飲みつづける
生活と通院や服薬の両立

その他のHIV治療の問題点

病院ごとの診療レベルの格差
HIV感染症以外の病気との共生
医療者との関係性づくり