HIVはちゃんと治療してたら感染しないってホント? PrEPもコンドームもいらないの?性病はどうなる? 【U=Uに関するよくある質問集(後編)】
November 20, 2025 Modified: 2025.11.20
U=Uって聞いたことありますか?
HIVの治療方法は進歩しており、HIVに感染しても健康で長生きができるようになりました。また、効果的な治療を受けて、血液中のウイルス量が検出限界未満(Undetectable)に継続的に抑えられているHIV陽性者からは、セックスでHIVが感染しない(Untransmittable)ことが科学的に証明されています。このことを、U=Uといいます。
ナマで中出しされたら?
PrEPもコンドームもいらないの?
薬物を注射した場合はどうなの?
後編では、U=Uに関するさまざまな疑問に対して、
いろいろな条件を想定して解説をしています。
前編もお読みください。
- U=Uだと、コンドームなしでも、PrEPなしでも、ナマで中出しされても感染しないってホント?
- ホントです。アナルセックスでもオーラルセックスでも、タチでもウケでも、中出ししてもされても、HIV陰性のひとがPrEPをしていてもしていなくても、HIV陽性の人が継続的な治療を受けウイルス量が検出限界値未満を持続していれば、セックスを通じたHIV感染リスクはありません。
2016年から2019年に発表された国際的な3つの大規模研究(PARTNER1(*4)、PARTNER2(*5) 、Opposites Attract(*6))では、HIV陰性とHIV陽性のカップルにおいて合計約130,000回のコンドームなしの挿入をともなうセックスが観察されましたが、ウイルス量が継続的に検出限界未満に抑えられているHIV陽性者からは、ただの1例もパートナーへHIVが感染した症例は認められませんでした。
これらの大規模研究によって、セックスの相手が男性で女性でも、膣性交でもアナルセックスでもオーラルセックスでも、タチでもウケでも、中出しをしてもされても、HIV陰性のひとがPrEPをしていてもしていなくても、HIV陽性の人が継続的な治療を受け検出限界値未満が持続していれば、セックスを通じたHIV感染リスクがないことが立証されています。
- 梅毒やクラミジア・淋病などの性感染症に感染していると、HIVに感染しやすいって聞きました。その場合はU=Uでも感染しちゃうんですか?
- いいえ。他の性感染症に感染していても、HIV陽性の人が継続的な治療を受け検出限界値未満が持続していれば、セックスを通じたHIVの感染リスクはありません。ただし、梅毒やクラミジア・淋病などの性感染症の感染は十分にあり得ますので、注意が必要です。
2008年に、スイス連邦エイズ委員会が「スイスステートメント(Swiss Statement)」という声明を出しましたが、そこでは「いかなる性感染症にも罹患していない」ことがU=Uの必要条件のひとつでした。しかし、その後に発表された3つの国際的大規模研究(PARTNER1(*4)、PARTNER2(*5) 、Opposites Attract(*6))では、HIV陽性者の約30%、HIV陰性者の約25%がなんらかの性感染症にかかっていたにもかかわらず、パートナーへのHIV感染は1例もありませんでした。したがって、性感染症にかかっていても、きちんと抗HIV薬を飲んでウイルスが検出限界未満の状態を6か月以上持続しているHIV陽性者からは、セックスでHIVを感染させるリスクはないと結論づけられました。
しかし、梅毒やクラミジア・淋菌などの性感染症の感染リスクは十分にあります。コンドームを使用して感染リスクを軽減することや、定期的に医療機関で性感染症の検査を受け早期に適切な治療を受けることは、自分とパートナーの性の健康にとって重要です。特に、PrEPを利用している人は、性感染症の検査を3か月~6か月に1回受けることが推奨されています。
- HIV陽性パートナーがU=Uであれば、陰性パートナーがPrEPをする必要はないのでしょうか?
- HIV陽性パートナーがU=Uであれば、PrEPをしていてもしていなくても感染は起きません。ただし、他にもセックスをする相手がいる場合など、性生活全体を考慮して決めるとよいでしょう。
HIV陰性の人がPrEPをしていてもしていなくても、HIV陽性の人が継続的な治療を受け検出限界値未満が持続していれば、セックスを通じたHIV感染リスクがないことが立証されています。HIV陽性でU=Uの状態の相手とセックスをする際に、PrEPを行うかどうかは各自の判断になりますが、メインのパートナー以外とのセックスを含めた性生活全体を考慮して決めるとよいでしょう。
PARTNER2(*5)研究の参加者の37%、Opposites Attract(*6)研究の参加者の39%のMSM(男性とセックスをする男性)は、試験期間中にメインパートナー以外の相手との間にコンドームを使わないアナルセックスがあったと回答しています。メインのパートナー以外とセックスがある人や、HIV陽性パートナーが抗ウイルス薬を開始して間もない人、あるいは何らかの理由があって服薬ができないHIV陽性者の相手にとっては、PrEPは大変有効な予防手段です。
- U=Uだったら、もうコンドームは必要ないってことですか?
- いいえ。抗HIV薬によってウイルス量が検出限界値未満になっても、HIV以外の性感染症は防げません。コンドームは、それら性感染症の予防(男女の場合は予期しない妊娠を避ける)など、性の健康のために重要なツールです。
U=Uの状態だからといって、コンドームを使用しなくてもいいとは言えません。ウイルス量が検出限界値未満を維持できていれば、セックスでのHIV感染リスクに関してはゼロですが、HIV以外の他の性感染症(ウイルス性肝炎、梅毒、クラミジア、淋病など)を予防することはできません。コンドームの使用は、他の性感染症の予防(男女の場合は予期しない妊娠を避ける)など、本人と相手の性の健康にとって重要で有効な手段のひとつです。
国立健康危機管理研究機構によると、日本における2024年の梅毒の報告件数は14,663件(速報値)と高い水準です。これは10年前の約10倍にあたり、注意が必要です。
- 注射による薬物を使用した場合でも、ウイルス量が検出限界未満だったら感染しませんか?
- 現時点では、薬物使用などで注射器具などを共用した場合の、HIV感染リスクがどの程度少なくなるのかという、明らかなデータは出ていません。
注射による薬物使用でもU=Uはあてはまるかどうかは、現時点では不明です。あくまでU=Uは「セックスを通じての感染」のみに限定されています。ですので、注射での薬物使用の際には、清潔な注射器を用いること、注射器などの器具の共用をしないなど、引き続き気を付ける必要があります。清潔な注射器を使うことは、皮膚の感染症や細菌性静脈炎、さらにC型肝炎などの予防にも大変有用です。
前編はこちら
参考文献
- Quinn TC, et al. Viral load and heterosexual transmission of human immunodeficiency virus type 1. Rakai Project Study Group. N Engl J Med 342: 921-929, 2000. DOI:10.1056/NEJM200003303421303
- Myron S. Cohen, et al., for the HPTN 052 Study Team. Prevention of HIV-1 Infection with Early Antiretroviral Therapy. August 11, 2011. N Engl J Med 2011; 365:493-505. DOI: 10.1056/NEJMoa1105243
- Cohen MS, et al. HPTN 052 Study Team. Antiretroviral therapy for the prevention of HIV-1 transmission. N Engl J Med 2016;375:830–9. DOI: 10.1056/NEJMoa1600693
- Rodger AJ, et al. PARTNER Study Group. Sexual activity without condoms and risk of HIV transmission in serodifferent couples when the HIV-positive partner is using suppressive antiretroviral therapy. JAMA 2016;316:171–81. doi:10.1001/jama.2016.5148
- Rodger AJ, et al. Risk of HIV transmission through condomless sex in serodifferent gay couples with the HIV-positive partner taking suppressive antiretroviral therapy (PARTNER): final results of a multicentre, prospective, observational study. The Lancet. Published online :May 02, 2019. DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(19)30418-0
- Bavinton BR, et al. Opposites Attract Study Group: Viral suppression and HIV transmission in serodiscordant male couples: an international, prospective, observational, cohort study. Lancet HIV 5: e438-e447, 2018. DOI:https://doi.org/10.1016/S2352-3018(18)30132-2
- Prevention Access Campaignウエブサイト https://www.preventionaccess.org (2019年5月1日アクセス).
- 一般社団法人日本エイズ学会2018年度第2回理事会議事録. 日本エイズ学会誌21:62-64, 2019.
- Iwamoto A, et al. The HIV care cascade: Japanese perspectives. Published: March 20, 2017. PLoS ONE 12(3): e0174360. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0174360
テキスト・文責:HIVマップ制作チーム
監修:山口 正純(一般財団法人博慈会 長寿リハビリセンター病院)




