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エピソードは、個人の体験談です。

リアル・ハッテン場 よもやま話(1) 義理・人情・浪花節 編

August 8, 2025 Modified: 2025.08.08

書いたひと
風呂寿喜男

風呂寿喜男 さん

30代後半・男性

昨年の秋口、久しぶりに関西へ旅行する機会を得た。せっかくの機会だ。年甲斐もなく最近の関西下半身事情でも探検してみようかと、スマートフォンを手操り、いくつかハッテン場を調べる。
関東生まれの私にとって、関西には馴染みのハッテン場はそれほどない。調べてみると、有名なサウナが二店舗同時に閉館したせいか、大阪ミナミにある、とあるサウナが盛況とのこと。
このサウナはもともと、いわゆる「人生の先輩方」…早い話がおじいちゃんたちの利用が多い場所だった。以前であれば、私のような若造が迷い込んでも「しょんべん臭いガキ」と、箸にも棒にもかからないと聞いていた。しかし、今では閉店した大型サウナの客が流れ込み、年齢層も30代からに拡大、嘘かまことかキュートボーイが殺到しているとの情報。なにせこちらはコロナ禍が明けてから数年ぶりの訪問。関西キュートボーイの渦に巻き込まれない手はない。

いそいそと向かった先は大阪・新世界。インバウンドの海外観光客らに揉まれながら、意外とコンパクトな通天閣、串カツ、スマートボール、関西弁での呼び込み……。イメージそのままの大阪の観光地を抜けた路地裏。そのサウナの前に私が立ったのは日曜日の午後、多くのハッテン場がプライムタイムと思われる時間帯だった。

若干の緊張と共に自動ドアが開く。

中に入ってみるとプライムタイムどころではなかった。なんと下駄箱に空きすらない、入場待ちの大盛況ぶり。しばらく行列に並んでなんとか館内に潜り込み、各種準備を済ませてエリアを散策すると、どこもかしこも文字通り足の踏み場もない状態であった。

そこはまさに桃源郷。高齢男性同士の熱い抱擁、行為の後の気だるいピロートーク、そして惰眠を貪るいびき。その隣では、儚い期待に身を震わせて寝たふりをする寝待ちの姿もある。基本はおじいちゃん比率が高く、元々の高年齢向けというベースは変わらないようだ。(色々な意味で天国に近いということか…不謹慎ながら)

とはいえ、せっかく来たのだからとしばらく館内を散策すると、目元の涼しげな、関東ではあまり見かけないエキゾチックな魅力をたたえた男性とチラチラ目が合う。おや? これは? と後をちょいちょい追いかけていくと、やはり先方もまんざらでもない様子。ミックスルームの通路でお互いの意思を確認(軽く乳首を触られる→感じてます的な反応を返す→軽くハグしてキス、というお決まりの手順)。足の踏み場もない館内で、落ち着ける場所を二人で探すことになった。

しかし、そこは3店舗分の客を吸収しているプライムタイムのサウナ。状況はゴールデンウィーク真っ只中のアウトレットモールのフードコートのよう。立っている人は全員、虎視眈々と行為の相手の前に場所を探している。空きスペースかと思えば、頭まで布団をかぶって寝ている人が見えていないだけ。敷布団の空き確実、と思って近づくと、スリムなおじいちゃんが足を縮めて寝ているだけだったり。館内を上から下まで歩き回っても、我々二人が腰を落ち着けるスペースは見つからない。

そのまま全ての部屋の巡回が3週目に入った頃だろうか。いや、歩きすぎだ。隣にいる目元が涼やかでエキゾチックな男性がいかに熱烈に私を求めてくれているとしても、そろそろ諦めてしまうのではないかと私は焦りを感じていた。
突然、布団に横たわっていた白髪で白い髭をたくわえた男性が、少し体をずらして私に声をかけた。
「兄ちゃん、ここでやりー」
と。

私は耳を疑った。前述の通り、プライムタイムのハッテン場は、ショッピングモールのフードコートよりも殺伐とした場所の争奪戦が行われているのだ。必要なのは行為のためのスペース。今まさに布団の空きをめぐって血で血を洗う争いが繰り広げられる最前線である。 にもかかわらず、その白髪の老人は私に言ったのだ。「兄ちゃん、ここでやりー」と。

え? まじ? そんなことある? 場所を譲ってくれるってこと??? (それは、ちんぽを譲ってくれるのとほぼ同レベルの奇跡では?) 混乱した私は、「あっ、いえ、だ、大丈夫です。ドゥフドゥフ」と、隠しようもないコミュ障っぷりを発揮し、逃げるようにその場を後にした。混乱しながら再度、例の男性と館内3週目の冒険に戻る。だって、そんな人情に溢れる人がいるなんて思わないじゃないか。

冒険に戻っても当然場所はない。いい加減諦めかけて、再度さっきの白髪の老紳士のそばを通りかかると、なんと紳士は再び私に優しく声をかけた。
「にいちゃん。ほら、ここ、ここでやり!」
そしてなんと自分は立ち上がり、実際に場所を空けてくれたのだ。近くで性行為を観察したいだけのすけべじじいではなく、純粋な親切心? にこやかに立ち去っていく老紳士を尻目に、こうして空けてもらった場所へ彼と私は倒れ込み、愛を交わすことができた。

義理・人情・浪花節。京は着倒れ、大阪は食い倒れ。だが、それだけではない。大阪は倒れたものにも優しい。倒れ込む場所まで譲ってもらえる、なんと人情にあふれる街かと、私はその時知った。
数十分後、この路地裏のサウナの、よく陽の当たる明るく晴れやかな風呂場で、暖かな陽と湯船につかりながら私はこの人の温かさを反芻していた。こんなに気持ちのいい風呂場を、国内の他のハッテンサウナで私は知らない。
殺伐としたほもすけべ業界。誰もが自分の快楽以外気に留めない、われ先に相手を求めて譲らないこの殺伐とした世界に咲いた一輪の花のような、奇跡のような晴れやかな人情と風呂場。私にとってこのサウナは、大阪の晴れやかさ、人と街の気持ちよさを象徴する場所となった。

さて、以下は余談。 彼との行為は、倒れ込んだ直後、体感30秒ぐらいで終了しました。早漏だったとかではなく、正確には解散。理由は「あまりに周りに人が多すぎて、ギャラリー的な冷やかしにテンションが下がった」という、なんかよくわからないもの。いや、それ最初からわかってただろ。人がいっぱいいるんだから。あれだけ頑張って場所を見つけたのに。おじいちゃんが譲ってくれたのに!
館内を3周以上歩いても維持されていた私への情熱が、30秒で急落した原因はどこにあるのだろうか? 近づいたら口が臭かったとか、体臭がヤバかったとか、しゃぶり方がキモかったとか、よく見たら頭頂部が予想外にハゲてて気分に合わなかったとか、そういうことだろうか。改善したいので正直に教えて欲しい。現実と直面するのは悲しいが、怒らないから。 やはり、ほもすけべ業界は生馬の目を抜く、一瞬の油断も許されない世界なのだ。

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