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行としてのシャワ浣

October 30, 2025 Modified: 2025.10.30

書いたひと
灌雨 止太郎

灌雨 止太郎 さん

40代

修行、滝行、ときには苦行……。我々は生きていく中で、様々な「行(ぎょう)」に直面する。その中でも、私たちゲイ、特に“ウケ”が日常的に対峙する「行」といえば、それはシャワー浣腸(以下、シャワ浣)ではないだろうか。

辞書で「行」を引くと、仏教用語や哲学用語として、以下のような意味が並んでいる。

行(ぎょう)

  1. (仏教用語)過去の善悪すべての行い。
  2. (仏教用語)因縁によって作られた、無常の存在。
  3. (仏教用語)僧や修験者の修行。
  4. (仏教用語)歩くこと。基本的な所作。
  5. (哲学用語)行為。実践。

これらはまさに、ウケにとってのシャワ浣そのものではないか。 シャワ浣とは、過去の自分の身体(特に食生活)のあり方を問う行為であり、縁によって変わりゆく己のコンディション(ケツの調子)と向き合うことでもある。そして、挿入を伴うセックスにおいて、最初に求められる基本の所作であり、常に洗練が求められる修行でもあるのだ。 このテキストでは、「行」の定義に沿って、シャワ浣という行為の奥深さを探求していきたい。

① 体調管理も、シャワ浣のうち

—「善悪すべての行い」の反映

「体調管理も仕事のうち」。昭和のサラリーマンが言われたこの言葉は、現代のウケにも突き刺さる。そう、体調管理もシャワ浣のうちなのだ。 ウケなら誰しも、予期せぬ腹のゆるさに絶望し、延々と流れ続ける褐色の水に「今日はダメな日だ…」と悟った経験があるだろう。20分かけても終わらない格闘を、一度も経験したことがない者などいないはずだ。 ノンケの男性にとって、己の排泄物などトイレに流す前に一瞥する程度の存在かもしれない。しかしウケにとっては、まさに死活問題。「万が一にも粗相をするコンディションではないか?」「この柔らかさは危険信号ではないか?」——シャワ浣の時間は、過去の自分の行いを映し出す鏡となり、日常のヘルスチェックそのものとなるのだ。

② ケツの調子と向き合う

—「因縁によって作られた存在」との対話

シャワ浣は、己の「出口であり入口」でもあるアナルと真剣に向き合う時間でもある。 パートナーとの縁、つまり過去のセックスの積み重ねと、その時々の体調によって、アナルのコンディションは常に変化する。フィストの経験がある人が「最初の拳の入れられ方で、その後の形が決まる」と語るように、アナルは極めてパーソナルで、繊細な「因縁の産物」なのだ。 「出血はないか?」「性感染症が疑われる“できもの”はないか?」「内部のコンディションは良好か?」 多くの男性が気にも留めないであろうその場所を、指で触れて注意深く観察する。これもまた、シャワ浣という「行」の一側面である。

③ 自己流を探求し続ける

— それは苦行であり「修行」

シャワ浣は、己の技を磨き続ける「修行」でもある。しかも、楽しいからやるのではなく、その先にある目的のために苦痛を乗り越える、よく聞く「マイル修行」に近いニュアンスだろうか。 そこには、多くの探求すべきポイントが存在する。パッと思いつくだけでも・・・

  • 器具: シャワーヘッドは外す?ウォシュレットで済む?ノズルの材質は?
  • 体勢: しゃがむ?中腰?手は前から?後ろから?
  • 湯量と回数: 今日のコンディションなら、どれくらいの湯を何回繰り返せばベストか?

体調や年齢によっても最適解は変わる。変わりゆく自分と向き合い、常にベストを探求し続ける。それは趣味の域を完全に超えた、職人的なクオリティが求められる行為だ。なのに報酬はなく、それ自体が楽しいわけでもない。ただ、その後の快楽のために自らと向き合い、修練を重ねる。これぞまさに「苦行」であり「修行」と言えよう。

④ いつでも、どこでも、どんな状況でも

— 問われる「基本所作」の練度

日本国内のゲイのアナルセックスにおいて、シャワ浣はほぼ必須の「基本所作」だ。しかし、それは場所と時間に制約される、極めて厄介な基本所作でもある。 時間がたっぷりあるとは限らない。勝手のわからない他人の家、行列のできたハッテン場のシャワーで、迅速かつ完璧にこなさねばならない時もある。にも関わらず、どこでもできるというわけでもない。(初めて行った売り専の個室、みんなどうしてるんですか?)
極めつけは、恋人との温泉旅行だ。付き合いたてのカップルが気にするのは、眺望や食事かもしれない。だが、百戦錬磨のウケが真っ先に血眼でチェックするのは、客室のシャワー環境だ。 部屋の写真や口コミを徹底的に調べ上げ、「部屋風呂なし、大浴場のみ」の旅館を断腸の思いで候補から外す。いざ到着して、おしゃれな部屋付きの温泉に、シャワーがついていなかった時の絶望といったら。 その場でベストを尽くすだけでなく、事前リサーチすら求められる。基本所作とは、常にそういうものなのだ。

シャワ浣。このシリーズは、「行」として自らと向き合う、すべての実践者たちに捧げる記録である。

HIVマップ制作チームからのコメント

シャワ浣は、ウケにとって便利なアナル洗浄の方法のひとつではありますが、肛門や直腸はとても繊細な器官であることを意識しておくべきでしょう。水温、水圧、頻度など、いくつか注意すべき点があるようですので、今後あらためて情報を整理してお伝えする予定です。

また、痔、尖圭コンジローマ、クラミジア・淋菌の直腸感染、肛門がんなど、肛門や直腸に関する性の健康についても取り上げていくつもりです。

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