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【専門家に聞きました】前編:梅毒は見過ごしやすい!気をつけたい症状・検査の注意点(ゲイバイ男性向け)

March 5, 2024 Modified: 2025.02.25

国立感染症研究所 感染症発生動向調査事業年報
※2022年、2023年、2024年のデータは速報値で今後変更となる可能性があります。
(日本の梅毒症例の動向について 2025年1月7日現在)

最近、梅毒が急増しています。2024年は14,663件(速報値)と高い水準で、これは10年前の約10倍にもあたります。

新型コロナの流行時期には報告数が一時的に減ったものの、再び増加に転じさらに加速しているようです。これは異性間による感染の急増もありますが、男性同性間でもやはり増加しています。

そこで、今回は感染症の専門家に詳しくお話をうかがいました。今村顕史先生(がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長 / 感染症センター長)は、HIV感染症の治療を通じて長年ゲイバイセクシュアル男性の性の健康にたずさわってきた方でもあります。

梅毒ってどんな病気?

――まずは梅毒が、どのように進行する病気なのかをご説明いただけますか。

今村:梅毒の症状や進行はけっこう様々なので、よく出てくるこの図、ここのところがたぶん難しいんですよね。これでもまだ簡略化してくるぐらいです。ポイントは意外と潜伏期間に幅があるということ。

まず第1期というのがあって、感染してから10日~90日くらいたってからです。次に、4週~10週とまたかなりの幅があって、第2期というのがある。第1期はペニスや肛門など局所の症状が中心で、第2期は一番多いのが発疹ほっしんです。

第1期も第2期も、どちらも放っておくとしばらくして良くなってしまうんです。放っておくと悪くなるんだったら病院に行くじゃないですか。だけど、どちらも、気になって検査に行かなければ、しばらくして何もなかったことになってしまう。本当は、本人が気づくチャンスはこの第1期と第2期のふたつなんです。でも、どうしようかって迷っているうちに症状が消えてしまったり、症状が出なかったり、気づかないぐらいの程度だったりもあるので。だからといって梅毒になってないとは限らないですよ。そこのところは大事なポイントなのでおさえておいたほうがいいです。

その後は、ずっと症状のない潜伏せんぷく梅毒ばいどくになってしまう可能性が高くて、そのうちの一部の人が、けっこう長期間にわたり潜伏したのちに重篤なことになる可能性があるというのも知っておいたほうがいいですね。

なぜ梅毒は見過ごされやすいのか

――第1期の症状って本人にわかるようなものですか?

第1期の局所病変

今村:第1期の典型的な症状で、初期硬結しょきこうけつ硬性こうせい下疳げかんというのがあります。初期硬しょきこうけつというのは···ですね。例えばペニスのところにできたりします。この···というのは、教科書的には耳たぶの軟骨ぐらいの硬さとよく言われます。5ミリから1センチぐらいで、盛り上がっていて、触るとコリコリとした感じです。その盛り上がりが、しばらくすると真ん中のところがえぐれてくるんです。そして、真ん中が抜けてきて、ただれや潰瘍かいようみたいな感じになってくる。これを硬性こうせい下疳げかんといいます。

···のときは見た目が皮膚のままなので、そんなに危機感はないと思うんですけど、硬性こうせい下疳げかんはさすがにただれや潰瘍かいようになっているので、見てわかれば、これはまずいぞと感じると思うんです。ただ、痛みがあれば病院へ行くと思うんですけど、多くの場合は痛みがないんです。潰瘍かいようができていれば痛いのが普通だと思うんです。たとえばヘルペスのときは、もっとちっちゃい···みたいな感じとか潰瘍かいようでもすごく痛かったりしますけど、梅毒はほとんど痛みがないほうが普通なくらい。

それから、ペニスの所でも裏側とか見えない部分だと意外と気づかなかったりするんです。よく女性だと、女性器のところはあまり見ないので自分で見つからないって言うんですけど、男性同士の性感染で肛門とか直腸にできると、自分では見えないしわからない。しこりがちょっとできて、それが硬性こうせい下疳げかんになって、痛みもなく消えてしまえば、おそらく見過ごすと思うんです。その辺のところはちょっと注意ですね。

――第2期は発疹はっしんが多いということでしたが

典型的な皮疹

今村:第2期の典型的なのは、こんな感じの皮膚の発疹ほっしんです。ちょっと淡いような赤いのが、ふわふわと淡くなっているような感じですね。鮮明な赤色という感じではなくて、よく見てみると乾いていて、皮がちょっとげるような感じ。落屑らくせつと言うんですけれども、そういうのをともなっていることがけっこう多いです。発疹ほっしんが手のひらにもできやすいというのが特徴的で、足の裏にも出たりします。だから、手のひらを見て、足の裏も見てという感じにするといいです。それから、腕とかに出ることがすごく多くて、自分で見つけやすいと思うんですけど。あと、体幹部とかも出ますけど、顔にはあんまり出ないんです。

これも2、3週とか数週間で自然に消えてしまいます。その後は無症候期むしょうこうきに入ってしまうので、あとは年単位での長期になってしまいますね。

――症状に気づかなくて梅毒を見過ごしてしまうことも多いんですね

今村:はい。僕は、HIVで定期通院している人をたくさん診てますけど、そのなかで梅毒の診断がついて治療する人がいるわけです。その人たちは、どちらかというと通院時の定期検査をしている中でわかることのほうが多いんです。本人が症状に気づいて「これ梅毒じゃないですか」と言って見せてくるときもあるんですけれど、どちらかというと定期チェックで検査の数字が上がっていてわかることのほうが多い。そのぐらいに見過ごしてると思うんです。

梅毒って、自分事として危機感を持って検査に行かないと、気がつかないことが多いんです。症状が出たからというよりは、やっぱり症状がなくても、リスクがあったら一回検査しておこうよっていうのが正解だと思うんです。

梅毒の検査結果をどう解釈する?

――梅毒の検査ってどんな検査なのですか

今村:梅毒の検査は血液検査なんですけど、医療機関では入院するときとか内視鏡の前とか、日本ではみんな当たり前のようにやっているんです。こんなにやっているのは日本ぐらいなんですけど。定性ていせい検査けんさといって、プラスかマイナスで出る検査をやっていると思いますよ。でも、梅毒の検査結果の解釈ってけっこう難しくて、医療機関でも梅毒のことを慣れてない所に行っちゃうと、誤解したり混乱したりすることもあるかもしれないので、注意が必要なんです。

――どんな結果だとどういう状態を示しているんですか?

今村:STS法(RPRなど)とTP法(TPHAなど)の2つの検査をします。両方を定性ていせい検査けんさでやった場合、この四つのパターンになりますよね。プラスプラス、プラスマイナス、マイナスプラス、マイナスマイナスです。

①プラスプラス

プラスプラスは、教科書で見ると「感染あり」「治療必要」って書いてあるんです。ただし、TPというのは、過去に感染したことがあるひとは、治療をしたあとも定量ていりょう検査けんさをしてみるとけっこう高い数字でそのまま残っています。かなり高い数字でそのまま残ってるのは普通のことなんです。つまり、過去に梅毒になったことがあるひとは、治癒ちゆしていてもプラスマイナスの検査でやったらTPは一生プラスです。

それから、RPRも治療したあとにマイナスにならないことがけっこうあるので、このプラスプラスの中には、過去に感染したことがあってすでに治癒ちゆしている人も存在しています。だから定量ていりょう検査けんさをして数字を見る必要があるんです。

②プラスマイナス

プラスマイナスっていうのは、教科書的には、「生物学的偽陽性」と見るんです。ただ、先にRPRのほうが上がってくることが多いので、そうすると感染初期かもしれないです。TP(TPHA)のほうがあとから上がってくることが多いので、これから上がってくるのかもしれないですよね。

③マイナスプラス

RPRは治療後に下がってきて、マイナスになる人もいるんです。判定する基準値より下がった人はマイナスになるのです。TPは高いままでいきますから、教科書的には「治療後」「治癒ちゆしたあと」ということになるんです。

ただ、さっき言ったRPRかTPか、どっちのほうが先に上がるかっていう問題があるんです。以前はTP法はTPHAというのが多かったんで、RPRよりあとから上がってくるものだった。ですけど、最近はTPLAというのが多くて、TPLAはTPHAより早く陽転することがあるんで、RPRよりも早く陽転する可能性がある。そうすると、TPLAで検査したときは、マイナスプラスで感染初期もあり得るんです。

④マイナスマイナス

マイナスマイナスというのは、教科書的には「感染なし」です。だけど、これも超急性期でまだ潜伏期間に入ったばかりのときだったら、どっちもまだ上がってないので、感染初期ってことはあり得るんです。

――かなり複雑な話になってきたのですが……

今村:このプラスマイナスを総括すると、どの組み合わせも感染の可能性があるという結論に至るんです。その理由は、感染の初期が含まれるからなんですね。ごくごく最近に感染があるかもしれなかった人だと、このケースは役に立たないという話になってしまう。ほんとうは感染する機会があってから4週間経ってから検査をするとより正確な結果が得られるわけですけど、感染したのがいつかを特定できないことも多いですよね。

ゲイバイセクシュアル男性だとハイリスク層なので、もともとの有病率ゆうびょうりつが高いのでTPがプラスのひとが多いわけです。だから、すごく最近リスクがあった人や常にリスクが高い人が、保健所の定性ていせい検査けんさでプラスマイナスを受けに行くと、振り回されてしまうかもしれないということは知っておいてもいいかもしれない。マイナスでも安心してはいけなということは、注意しなくちゃいけないです。

ただし、プラスが過去のものを拾っているかもしれないとしても、それがきっかけで、今度は医療機関に受診することになって、定量ていりょう検査けんさなどで精査すればそれでいいと思うんです。だから、取りあえず検査を受けてみようというのはいいことだと思います。

後編へつづく

今村 顕史(いまむら あきふみ)
現職:がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長 / 感染症センター長

石川県出身。1992年、浜松医科大学卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。

日本エイズ学会理事、日本エイズ学会認定医・指導医
感染症学会評議委員、感染症学会専門医・指導医
日本性感染症学会 梅毒委員
日本寄生虫学会評議委員

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