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【専門家に聞きました】後編:梅毒は何度でも感染する!予防・治療、セックスはいつから?(ゲイバイ男性向け) 

March 5, 2024 Modified: 2024.03.05

最近、梅毒が急増しています。2023年は14,906件(速報値)で、これは10年前の10倍以上にもあたります。そこで、感染症の専門家から詳しくお話を伺いました。前編に続き後編をお届けします。
前編はこちら

今村顕史先生(がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長 / 感染症センター長)は、HIV感染症の治療を通じて長年ゲイバイセクシュアル男性の性の健康にたずさわってきた方でもあります。

梅毒はどのように治療する?

――梅毒は治療方法が確立している病気なんですよね?

今村:はい、梅毒は抗生剤で治療ができます。ちょっと前までは内服薬のみでした。アモキシシリンというペニシリン系の抗生剤を使って、もし効かなければ他の抗生剤を使います。第1期~第2期でしたら通常は4週間の内服をします。

それから、点滴で治療することもあります。たとえば、合併症でブドウ膜炎という目の病気になったりして、眼科で見つかったりすることもあります。あと、神経梅毒が疑われるときとか、そういうときには点滴で入院して治療したりします。

それから、最近になって承認されたのがベンザチンペニシリンという注射薬。初期だったら1回の筋肉注射でいいというものです。これは昔からあるお薬で、もともと世界では標準的な治療だったんです。ですけど、日本では昔、アレルギーの副作用がけっこう重いのが出るんだっていう話が広まってしまって、製造が止まっていたんです。それで承認されてなかったという経緯があるんですけど、そもそもアモキシシリンもペニシリン系なので同じなんです。ただ、注射薬みたいな長く体内にとどまって効くお薬というのは、もしもアレルギーの副作用が出たときには、毎日飲むお薬とくらべると重めになることがあるということはあります。

治療すると梅毒はどれくらいで治癒ちゆする?

――梅毒の治療を始めてからどれくらいで治るんですか?

今村:内服薬にせよ筋肉注射にせよ、実際に梅毒の治療を受けたあとは、その治療の効果があったかどうか血液検査をしてフォローアップされると思うんです。そのときに、自分がよく知っておいたほうが安心かなと思うポイントがあります。

というのは、治療のあとに検査結果がマイナスにならないっていう不安感があって、説明する先生も上手じゃなかったり、よく知らなかったりすると、ちゃんとした説明を受けられなくて、そのためにさらに不安になることもあると思うんです。

実際には、RPRの定量ていりょう検査けんさで判定するんですけど、これはあくまでも病原体がいる・いないではないんです。スピロヘーターという病原体は、おそらく多くの場合は内服薬だと2週間から4週間くらいで体の中にいないんですよ。病原体がいない状況になっていても、RPRの定量というのは数値が下がっていくのが年単位でゆっくりなので。だから、この数字がゼロになっていくことを治癒ちゆというわけではないんです。

それで、判定基準というのを設けています。検査方法によって治癒ちゆの判定基準が異なり、倍数ばいすう希釈法きしゃくほうというのだと4分の1、自動化じどうかほうというのだと2分の1以下に低下するかどうかで判断されている。つまり、RPRの定量ていりょう検査けんさが4分の1、あるいは2分の1になったら治癒ちゆしたと見ることになっているんです。これがだいたい、1、2カ月から半年、遅くとも1年ぐらいの間にこの数字を満たしてれば、もう治癒ちゆしたって見るんです。

――梅毒に慣れていない医療機関だと、誤解したりするかもしれないですか?

今村:うちの病院に、梅毒が治らないんですけどと言って、他の病院から紹介されてくるパターンが、実はあります。たとえば、どういうことが例としてあるかというと、ペニシリン系ってごく普通によく使われているお薬で、特に歯科口腔外科の領域だとアモキシシリンはよく使います。そうすると、梅毒に昔かかっていて、その間に歯の治療でアモキシシリンとか投与されたりすると、よくなっちゃっているんです。そうすると、RPRが下がったところで検査されてしまって、そこをピークとして見たら、それはなかなか下がらないですよね。そんな人なんかも実は含まれていたりします。あと、一部の人は治っているんだけど十分にRPRが下がらないような反応をする人もいることが、実はわかっています。

この辺のところを、本人にもちゃんと説明をしながら理解してもらって、安心してもらわなくちゃいけない作業が入ってくるので。困ったら専門の医療機関に行ったほうがいいです。僕たちの所でもいいですけど、経験の多いところで相談してみるのがいいです。あまり慣れてないところで粘っていても仕方がないかなと思うんで。

セックスを開始できるタイミングはいつ?

――治癒ちゆしてからでないと、セックスはすべきじゃないんですか?

今村:それって難しいですね。正式な回答って、医者がなかなか出せないんだと思うんです。一番安全策を取るのであれば、治療判定を待つ。RPRの定量ていりょう検査けんさがピークの数字から半分また4分の1以下になったら治癒ちゆと判定しますから、そこをセックス開始にすれば、一番確実。早い人は2、3カ月くらいで半分を切るし、もっと早い人は1カ月で半分を切るから、それはそれでもっとも安心感があると思うんです、正式な治癒ちゆ判定はんていなので。

ただ、3カ月、4カ月たっても、まだRPRが半分になってなかったりすると、いつセックスを始めたらいいのって思うじゃないですか。数カ月以上かかる人もなかにはいるんです。なおかつ、もともとピークじゃなかった人はもっとかかったりするんです。なので、たぶんどこかのところで線を切っていくしかないと思います。ちゃんと治療が完結したのであれば、通常は2週間から4週間のところで、おそらく病原体は破壊されていると思います。梅毒のスペロヘーターという病原体は、長い歴史の中でペニシリン系の薬の耐性ができていないので、治療の失敗というのはごく少ないとは思いますから。なので、明らかにRPRの低下傾向がしっかり見られるようだったら、1~2カ月たったところで最初はコンドームを着けて、できれば半分または4分の1になるのを待ちつつも、もうセックスはOKっていうのでもいいんじゃないですかね。

本人からうつすかどうかっていうと、一番うつすのは本人に病変があるときなので。それ自体はもう良くなってきていると思いますから。問題ないっていう状況にはなると思うんですよ。

梅毒を予防するにはどうすればいい?

――梅毒の予防方法ってけっこう難しいと思うんですが、どのようなことを注意したらいいでしょうか?

梅毒のポイント1

梅毒はオーラルセックスで咽頭に、アナルセックスで直腸にも感染する

梅毒の皮膚・粘膜病変の多くは、痛みを伴わない

梅毒1期の局所病変や、2期の発疹などは、自然に消退してしまう

今村:一般向けのところには、梅毒は性器の他にも、オーラルセックスでも感染するって書いてあるんですけど、ゲイバイセクシュアル男性だと説明を変えたほうがいいですよね。オーラルセックスで咽頭(のど)に、ペニスのこすり合わせなどでペニスに、アナルセックスではペニスや肛門や直腸にも感染するので。直腸とかに感染すると病変が当然見えないですから、その辺のところは注意です。

――直腸の病変は見えないですが、咽頭(のど)の梅毒って自分でわかるものですか?

今村:咽頭(のど)の梅毒も目には見えないことが多くて、·····の両側のところがちょっとただれるぐらいの感じだったりします。本人は、のどにちょっと違和感あるかなぐらいだったり、まったく症状なかったりして。なので、自分の感染に気付いていないことが普通です。のどに梅毒があるとは思ってないんです。そうすると、オーラルセックスで相手にうつすという可能性もありまよね。

痛みをともなわないということと、自然に消退してしまうということと、症状がなくても感染させる状況だったりすること。このあたりも覚えておいてほしいです。

――オーラルセックスをする側から相手のペニスに感染するということなのですね

今村:そうです。梅毒がある人ののどにインサートすれば、当然ペニスのところに梅毒が感染しますよね。だから、オーラルセックスで、のど、ペニス、のど、ペニスという感染経路です。それで複数に感染ということも、普通にあり得るっていうところかと思います。

――梅毒って何度もかかるんですよね?

梅毒のポイント2

梅毒は症状がなくても感染する

梅毒は何回でも感染する

パートナーも治療しなければ再感染する

今村:何回でも感染します。一回感染したから終わりではなくて、すぐにまたかかるということも。すぐにまたかかる相手がパートナーかもしれないので、自分だけ治療して、相手が治療してなくて、同じ人とセックスをすれば、また感染する可能性があります。だから、セックスの相手にも検査をしてもらうというのは大事です。

たとえばパートナーがいて、自分が治ったとします。自分が梅毒になってたというの、なんとなく言いにくいじゃないですか。ただ、相手が他の人とセックスをして感染していたのかもしれないですよね。こういうときってお互いさまの話なので、お互いを守るような形で行動を取るのがベストだとは思います。その辺のところを、みんなが共有してくというのがすごく大切で、その中で自分たちが楽しめるセックスの関係性というのが保たれるのだと思うんです。

もちろん、言えないってことも当然あると思いますし、相手がわからないということもありそうじゃないですか。たとえばハッテン場だと相手をみんな確認しながらというのは当然無理だと思うので。そういうところを考えれば、再感染の可能性をふまえて、確率を下げるということを考えてもいいとは思います。たとえば、同じ人と出会ってまたかかる可能性が当然あるので、いつも行っていた時間帯はちょっと避けるとか、ハッテン場を変えてみるとかですかね。

性感染の予防に100パーセントはないので、自分の中で少しでも確率を下げる努力をするという感じかな。100パーセント目指すと、セックスするなってことになってしまい、本末転倒になっちゃうんですよね。ただ、どういう感染症かということをちゃんと理解することによって、感染する確率を下げることができると思います。

――PrEPをやっている人が多くなっていますが、そのことと梅毒の増加についてどう思いますか?

今村:難しいですね。PrEPってとてつもないデータがバックにあり、HIVの感染予防に関して公衆衛生的には誰も疑わないというものだけど、PrEPをやり始めると、いままでの予防の主役だったコンドーム使用が下がってしまう可能性が指摘されています。梅毒もコンドーム使うことで、完全には難しいという話であっても、ある程度予防できることはわかっている。そのある程度の部分も落ちてしまうと、当然ながら感染が広がりやすくなるということは、容易に想像できることですよね。

それは、PrEPが出たときから医療の中で問題視されていたんです。それで、海外でも梅毒が増えるかという話を見ていて、やっぱり増えている所なんかもありますから、今後も増える可能性があるので、注意はしなくてはいけないです。

――梅毒が増えているいま、ゲイバイセクシュアル男性ができることはなんでしょう?

今村:その人によって、感染の確率を下げる方法のレベルって違うと思うんです。怖くてセックスしない人もいるかもしれないですけれど、そこは完結する場所ではなくて、セックスをするんだったら、自分はどういうことを考えながら、どのぐらいの行動で、どのぐらいの予防をしておこうかなということを、自分で決めていくという作業をすることが大事だろうと思います。それによって確率を下げていくというのが大切なんだろうと。

梅毒って、けっこうコンドームで避けられますけど、コンドームでおおわれない所にも病変が出ますから、やっぱり100パーセントは無理。そうすると、パーセントを下げるためにはここはこうしようかということになる。それって、相手との接点の部分をどうするかという選択かもしれないし、行為の選択かもしれない。そこは、その人によって違っていてもいいと思うんです。でも、それを考える前とくらべたら、自分は確率を下げられてるいということになる。そこがたぶんとても大切なんだと思います。

――どうもありがとうございました。

今村 顕史(いまむら あきふみ)
現職:がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長 / 感染症センター長

石川県出身。1992年、浜松医科大学卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。

日本エイズ学会理事、日本エイズ学会認定医・指導医
感染症学会評議委員、感染症学会専門医・指導医
日本性感染症学会 梅毒委員
日本寄生虫学会評議委員

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