HIVはちゃんと治療してたら感染しないってホント? どんなエビデンスがあるの? 【U=Uに関するよくある質問集(前編)】
November 15, 2025 Modified: 2025.11.15
U=Uって聞いたことありますか?
HIVはちゃんと治療してたら感染しなくなるということを表した言葉です。
なんとなく知っているけれど、
なんとなく半信半疑だという人も多いかもしれません。
ここでは、U=Uに関するさまざまな疑問に対して、
ひとつひとつ丁寧にエビデンスを示して解説をしています。
HIVに関して持っているイメージや情報を
アップデートするために役立てていただければ幸いです。
質問集の後編(Q6~Q10)11/18 公開予定
(PrEPは必要ないの?コンドームもいらない?性病はどうなる?など )
- HIVって、ちゃんと治療してたら感染しなくなるってホント?
- ホントです。HIV陽性の人が抗HIV薬を飲み始めてから、通常は1~6ヵ月で血液中のウイルス量が検出限界未満になります。さらに、この状態を6ヵ月以上持続できていれば、セックスによって相手にHIVを感染させるリスクはゼロとなります。
現在の医療では、HIVに感染した人の体内から完全にウイルスを除去することはできません。しかし、HIVが体内で増えるのを抑える薬(抗HIV薬)が開発され、薬を飲み続けることで長期的に良好な健康状態を保ち、HIVに感染する前と同じような生活を送ることができるようになりました。
そして、抗HIV薬を飲み続けることで、血液中のウイルス量を検査で検出できないほど少なく抑えることができます(Undetectable:検出限界未満)。通常は、飲み始めてから1~6ヵ月で検出限界未満になります。さらに、この状態を6ヵ月以上持続できていれば、セックスによって相手にHIVを感染させるリスクはゼロとなります(Untransmittable:感染しない)。このような状態をU=U(Undetectable =Untransmittable)といい、コンドームやPrEPなどの予防なしのセックスにおいてもHIVは感染しません。
また、HIV陽性の人にとってウイルス量を検出限界未満に維持することは、心臓病や腎臓病、がんなどの病気のリスクを下げる可能性があることが、複数の観察研究で示されています。現在では、HIV検査をして早期に感染を知り、治療を開始することは、健康上の大きなメリットと言っていいでしょう。
HIVのウイルス検査の精度は国・地域によって異なります。日本ではウイルスを20コピー/mLまで検査で検出することができますが、世界的には200コピー/mLが検査での検出限界である国・地域があります。そのため、国際的にはU=Uにおける検出限界未満(Undetectable)を200コピー/mL未満としています。
- HIV陽性なのに、他の人に感染しないってどういうことですか?
- HIVの感染性を考えるときには、[HIV陽性/HIV陰性]だけでなく、[ウイルス量が多い/ウイルス量が少ない]が重要です。ウイルス量が多いと感染しやすく、ウイルス量が少ないと感染しにくく、ウイルス量が検出できないくらい少ない(検出限界未満)場合には感染しません。
HIV感染症は、体内のウイルスが多いほど感染が起きる可能性が高くなり、ウイルスが少ないほど感染が起きる可能性が低くなると言われています。HIV検査を受けて陽性とわかり、通院して抗HIV薬を飲み始めると、通常は1~6ヵ月で血液中のウイルス量が検出限界未満になります。この状態を最低6ヵ月以上持続できていれば、セックスによって相手にHIVを感染させるリスクはゼロとなります。
一方、HIV検査を受けなければ自分がHIV陽性かどうかを知ることはできません。検査を受けないままでは治療を始めることができず、その間、体内のウイルス量は高い水準で推移することがほとんどです。特に、感染してすぐの時期はウイルス量が非常に高くなるため、他の人に感染させやすい状態になります。しかし、感染直後にHIV検査を受けて陽性とわかる人は多くありません。つまり、本人が感染していることを自覚していない時期にこそ感染力がもっとも高い可能性があるのです。
また、HIV陽性の人にとってウイルス量を検出限界未満に維持することは、心臓病や腎臓病、がんなどの病気のリスクを下げる可能性があることが、複数の観察研究で示されています。現在では、HIV検査をして早期に感染を知り、治療を開始することは、健康上の大きなメリットと言っていいでしょう。
HIV検査を受けて陽性とわかり、治療を継続してウイルス量が検出限界未満の人からHIVが感染することはありませんので、本人も相手も安心してセックスをすることができます。
- U=Uだと感染しないっていうけど、ほんとうにエビデンスはあるの?
- はい。たしかな科学的なエビデンスがあります。国際的に実施された複数の大規模研究では、合計で約130,000回のコンドームなしの挿入をともなうセックスがありましたが、ウイルス量が継続的に検出限界値未満に抑えられているHIV陽性者からは、ただの1例もHIVが感染しませんでした。
いくつもの国際的な大規模研究によって科学的なエビデンスが示されています。
ウイルス量がコントロールされている人の場合、セックスでのHIV感染リスクが大幅に低下することが大規模調査として初めて明らかとなったのは、2000年のことです。ウガンダのヘテロセクシュアルのHIV陽性とHIV陰性のカップル(ゼロディスコーダント・カップル) 415組の観察研究において、ウイルス量が1,500コピー/mL未満の場合は、カップル間でのHIV感染が一例もなかったことが報告されました(*1)。
その後2011年になり、HPTN052試験(*2)という大規模試験が報告されます。これはアメリカ、アジア、アフリカ各国の、主にヘテロセクシュアルの1,763組のセロディスコーダント・カップルを、HIV治療をすぐに始めたグループと治療をしないグループとに分けて観察したものです。HIV治療をすぐに始めたグループは治療をしないグループに比べHIV陰性パートナーへの感染リスクが96%減少した、というものでした。結果が100%にならなかったのは、HIV治療をすぐに始めたグループで1例だけ感染してしまった人がいたからでしたが、この1例は抗HIV療法を開始して間もなくの時期に感染してしまった例でした。その後5年以上にわたり観察は続けられましたが、毎日の服薬が良好に継続され、かつウイルス量が6か月以上検出限界未満に維持されているHIV陽性者から感染した例は、その後一例も認められませんでした(*3)。
さらに2016年および2019年になり、PARTNER1(*4)およびPARTNER2(*5)という研究の結果がイギリスから発表されます。この研究は、もともとコンドームを使わない972組のゲイならびに516組のヘテロセクシュアルのセロディスコーダント・カップルを調べたものです。ゲイのカップルでは77,000回、ヘテロセクシュアルのカップルでは36,000回のコンドームを使わない挿入をともなうセックスがありましたが、検出限界未満のHIV陽性者からはただの1例もパートナーへのHIV感染がありませんでした。
同じような報告が2017年にオーストラリアからも報告されています。Opposites Attract研究(*6)という343組のゲイカップルにおいて17,000回のコンドームなしのアナルセックスが観察されたものの、やはり検出限界未満が維持されているカップルでは1例もHIV感染は認められませんでした。
これら3つ(PARTNER1、PARTNER2 、Opposites Attract)の国際的大規模研究を合わせると、合計約130,000回のコンドームなしの挿入をともなうセックスが観察されたことになります。しかし、ウイルス量が継続的に検出限界未満に抑えられているHIV陽性者からは、ただの1例もパートナーへHIVが感染した症例は認められませんでした。これらは、オーラルセックス・膣性交・アナルセックスを問わず、HIV陽性者がウケなのかタチなのかなども問いません。
このように、U=Uは十分にたしかな科学的エビデンスに基づいたものです。しかし、10年ほど前に証明されたものですので、もしも情報をアップデートしていなければ、医師などの医療従事者でさえU=Uについてのこうした科学的エビデンスを認識していない可能性があります。また、配布資料なども情報がアップデートされていない場合がありますので、注意が必要です。
- U=Uだと、「感染しない」とか「リスクはゼロ」ってどうして言い切れるの?
- いくつかのプロセスを経て慎重に検討した結果、「感染しない」と言い切れるようになりました。国際的にも、do not transmit(感染しない)、zero risk of transmitting(感染するリスクはゼロ)といった説明がなされています。
2010年代にU=Uに関する国際的な大規模研究の結果が相次いで発表される中、米国に本部を置く科学的なエビデンスをもとにしたHIV予防法へのアクセスの普及を求める活動家と研究者からなるPrevention Access Campaignというグループが、2016年に「コンセンサス声明」(*7)を出すこととなりました。このコンセンサス声明の主な内容は、「有効な抗ウイルス療法を受け血液中のウイルス量を持続的に検出限界値未満の状態を維持できているHIV陽性者は、HIVの性感染リスクを『無視することができる』」というものでした。
その後、『無視することができる』は感染リスクが残存すると誤って解釈される可能性があるため、2018年に「事実上リスクはない effectively no risk」「感染させ得ない cannot transmit」「感染させない do not transmit」にすべきとの用語の変更がなされました。
このコンセンサス声明ならびにU=U(Undetectable=Untransmittable)のメッセージに対する支持の動きはその後に全世界に広がり、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、国際エイズ学会(International AIDS Society)、米国疾病管理予防センター(CDC)、英国HIV学会(The British HIV Association [BHIVA])などの国際機関や各国のエイズ関連学会も支持を表明しました。日本でも、日本エイズ学会が2018年度の第2回理事会において支持の方針を承認(*8)しています。
また、国際保健機構(WHO)でも「感染するリスクはゼロ zero risk of transmitting HIV」、国連エイズ合同計画(UNAIDS)「HIVが感染するリスクはない no risk of passing HIV」といった英語表記をしており、日本語でも「感染しない」「感染するリスクはゼロ」と表記することが妥当と考えられています。
- HIV陽性の人は、自分が Undetectable(検出限界未満)だってどうしてわかるの?
- HIV陽性のひとが通院したときに行う血液検査でHIVのウイルス量を検査しますので、ウイルス量が検出限界未満の状態かどうかは通院ごと(多くのHIV陽性の人は2~3か月に1回)に確認されます。
HIV検査で陽性とわかった場合、専門の医療機関を紹介され、その初診時により精密な検査(ウイルス量や免疫状態など)を受けます。さらに、28日以上経過したのちにもう一度検査をしたうえで、抗HIV薬による治療を始めることが多いです。通常は、治療を始めてから1~6ヵ月で血液中のウイルス量が検出限界未満になります。さらに、この状態を6ヵ月以上持続できていれば、セックスによって相手にHIVを感染させるリスクはゼロとなります。この状態をU=Uといいます。
U=Uの状態になるには、以下の条件を満たす必要があります。
・抗HIV薬を毎日正しく服用している、あるいは定期的に抗HIV薬の注射をしている。
・ウイルス量が検出限界未満の状態が最低6ヵ月は維続されている。
また、抗HIV薬による治療が開始されウイルス量が検出限界未満になったのちも、定期的に通院を続けてウイルス量の検査をします。通常は2~3か月に1回の頻度で通院することが多く、その際にウイルス量を検査して検出限界未満の状態が続いているかを確認しているのです。
日本では治療中のHIV陽性の人の服薬率が高く、服薬を始めたひとのうち99.1%の人のウイルス量が検出限界未満になっているという研究報告もあります(9*)。また、抗HIV薬を飲んで検出限界値未満が6か月以上持続しているHIV陽性の人でも、ウイルスがときどき低いレベル(20~1000 copies/mL)で一時的に検出されることがあります。これを ”Blip” と呼んでいます。多くの場合は数日後には再び検出限界値未満に戻ることが知られていますので、”Blip”があってもセックスで相手にHIVが感染しないことに変わりはありません。
HIVのウイルス検査の精度は国・地域によって異なります。日本ではウイルスを20コピー/mLまで検査で検出することができますが、世界的には200コピー/mLが検査での検出限界である国・地域があります。そのため、国際的にはU=Uにおける検出限界未満(Undetectable)を200コピー/mL未満としています。
質問集の後編(Q6~Q10)11/18 公開予定
(PrEPは必要ないの?コンドームもいらない?性病はどうなる?など )
参考文献
- Quinn TC, et al. Viral load and heterosexual transmission of human immunodeficiency virus type 1. Rakai Project Study Group. N Engl J Med 342: 921-929, 2000. DOI:10.1056/NEJM200003303421303
- Myron S. Cohen, et al., for the HPTN 052 Study Team. Prevention of HIV-1 Infection with Early Antiretroviral Therapy. August 11, 2011. N Engl J Med 2011; 365:493-505. DOI: 10.1056/NEJMoa1105243
- Cohen MS, et al. HPTN 052 Study Team. Antiretroviral therapy for the prevention of HIV-1 transmission. N Engl J Med 2016;375:830–9. DOI: 10.1056/NEJMoa1600693
- Rodger AJ, et al. PARTNER Study Group. Sexual activity without condoms and risk of HIV transmission in serodifferent couples when the HIV-positive partner is using suppressive antiretroviral therapy. JAMA 2016;316:171–81. doi:10.1001/jama.2016.5148
- Rodger AJ, et al. Risk of HIV transmission through condomless sex in serodifferent gay couples with the HIV-positive partner taking suppressive antiretroviral therapy (PARTNER): final results of a multicentre, prospective, observational study. The Lancet. Published online :May 02, 2019. DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(19)30418-0
- Bavinton BR, et al. Opposites Attract Study Group: Viral suppression and HIV transmission in serodiscordant male couples: an international, prospective, observational, cohort study. Lancet HIV 5: e438-e447, 2018. DOI:https://doi.org/10.1016/S2352-3018(18)30132-2
- Prevention Access Campaignウエブサイト https://www.preventionaccess.org (2019年5月1日アクセス).
- 一般社団法人日本エイズ学会2018年度第2回理事会議事録. 日本エイズ学会誌21:62-64, 2019.
- Iwamoto A, et al. The HIV care cascade: Japanese perspectives. Published: March 20, 2017. PLoS ONE 12(3): e0174360. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0174360
テキスト・文責:HIVマップ制作チーム
監修:山口 正純(一般財団法人博慈会 長寿リハビリセンター病院)




