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ゲイ・バイ男性にとってのHIV/エイズのいま【後編】~U=UやPrEPの登場、コロナ禍でHIV検査数が激減した影響は?~

September 18, 2024 Modified: 2024.09.24

新型コロナ感染症の流行にともなって、2020年からHIV検査数が激減しました。また、U=UPrEPの登場は、日本のHIV/エイズにどのように影響を与えているのでしょうか?

前編に続き、エイズ発生動向報告をゲイ・バイセクシュアル男性の視点で読み解き、さらに、そこからは見えてこないいくつかの課題についても整理してみます。

各グラフの出展(「コンドームをいつも使っている人の割合」以外)
厚生労働省 エイズ動向委員会

コロナ禍で保健所のHIV検査数が激減 ~その影響は?

【前編】では、新たにHIV陽性と診断された人の数が、中長期的には減少傾向にあると書きました。それはその通りなのですが、新型コロナウイルス感染症が流行したこの数年だけはイレギュラーな変化が起きているため、注意深く観察する必要があります。

2020年、新型コロナの流行にともない全国の保健所はこの新しい感染症のために、多くの労力と人員を割いて緊急対応にあたりました。その代わり、日常業務の一部が機能停止となり、HIV検査の件数が激減したのです。2019年には全国で10万件以上の検査が行われていましたが、2020年は4万6千件、2021年に3万4千件、2022年は4万2千件と、3分の1近くまで減ってしまいました。2023年には回復してきたものの、7万件ですので新型コロナが流行する前の7割にすぎません。また、自治体による専門の検査所や検査会についても、(減少しなかった検査所もありますが)全体としては約6割まで検査数が減少しました。

HIV検査の機会が減れば、HIV陽性と診断される人の数は減ります。日本でHIV検査をしているのは保健所や専門の検査所だけでなく、病院・クリニック、郵送検査など多岐にわたります。しかし、もともと保健所や専門の検査所での検査数とそこでHIV陽性と診断される人の割合が高く、無料・匿名で検査できる機会は他にほとんどないため、HIV陽性と診断される機会が大きく減ったと考えられます。

HIV陽性と診断された人の数が、2020年は1,095人、2021年は1,057人、2022年は884人と減り続けたのは、中長期的な減少傾向の一端でしょうか?それとも検査件数の激減によるものでしょうか? そのどちらかだけとは言えないでしょう。少なくとも検査の件数が激減した影響がなかったはずはないでしょう。2023年は検査件数がやや回復し、新たに陽性と診断された人の数が微増に転じたのも、こうした推測と矛盾しないものと言えます。そのため、今後HIV検査数がさらに回復した場合に、あらたに陽性と診断される人の数がどのように変化していくのかを、注意深く見ていく必要があります。

さらに、もうひとつ注目すべきことは、“エイズ患者”の割合の変化です。“エイズ患者”の割合は、2009年~2017年は29%台~30%台の間で推移してきましたが、2018年は28.6%、2019年には26.9%まで下がりました。これが中長期的な傾向かどうかわわかりませんが、もしかしたら検査を早めに受けようと思う人が増え、検査件数は10万件にまで増え、“エイズ患者”の割合が低くなってきたということだったのかもしれません。しかし、コロナ禍で保健所のHIV検査が激減した2021年には5%近く跳ね上がり31.5%になりました。2021年は29.8%、2022年は28.5%、2023年は30.3%と乱高下しており、2019年までの傾向からは不連続であるように見えます。

まだ検査を受けていないが、すでにHIVに感染している人は、時間の経過とともに免疫力が低下してやがてエイズを発症していきます。検査の機会が十分にあり、症状がないうちに陽性とわかれば、“HIV感染者”としてカウントされることになります。しかし、検査の機会が十分になく検査が遅れてしまうと、日和見感染症などの症状が現れてから陽性とわかるため、“エイズ患者”にカウントされる人が多くなります。検査の機会が減ったことの影響として、検査の時期が遅れ、のちにエイズ発症する人の割合が増えることが考えられます。そのため、特に検査件数が激減した2020年~2022年の3年間の影響は、これからまだ数年間は続くのではないかと懸念されます。引き続き“エイズ患者”の割合の推移を注意深く見ていく必要があるでしょう。

エイズ発生動向からは見えてこない大きな要素

世界のHIV/エイズの現在の状況を見てみると、例えば、検査や医療環境の整ったロンドンやシドニーのような先進国の一部の大都市の中心部に限っては、PrEPの普及などにともない新たな感染がなくなっていく状態に近いとの推計もあります。しかし、開発途上国を中心にまだまだ啓発・検査・治療それぞれが行き届かない国・地域もあり、2023年に全世界で130万人が新たに感染し、63万人もの人がHIV/エイズに関連して亡くなったと推計されています(注1)。

(注1)UNAIDS FACT SHEET 2024

それでは、日本でHIV/エイズは今後どうなっていくのでしょうか? それを考えるには、エイズ発生動報告からだけではわからないいくつかの大事なことがあります。

HIV感染しているけれども陽性と知らない人の割合

UNAIDSによる「95-95-95」目標

HIVに感染している人のうちの、95%が検査でHIV陽性と知る

そのうちの95%の人が抗HIV薬による治療を受ける

そのうちの95%の人のウイルス量が検出限界未満となる

UNAIDS(国連エイズ合同計画)はHIV/エイズの公衆衛生上の危機としての流行を終焉させるために、「95-95-95」という目標を掲げています。日本では②と③はおおむねクリアされていますが、問題は①だと考えられています。

日本では、HIVに感染している人がどれくらいいて、そのうちどれくらいの割合の人がHIV陽性と知っているのでしょうか?

過去にHIV陽性と診断されてきた人の累計はエイズ発生動向報告からわかります。そこから他の推計等によって海外に転出した人や亡くなった方を引いた数が、現在日本にいるHIV陽性と知っている人の数になります。その数字を、HIVに感染している人の数の推計値で割ったもの(あるいはそれに近い推計値)が、過去にいくつか発表されています。それらによると、HIVに感染している人のうちの、9割くらいが検査でHIV陽性と知っていることになります(2015年~2017年時点で80~85%前後[1,2,3]、2022年時点で90%前後と推計 [4])(注2)。

これらの推計では、感染しているけれども検査で陽性と診断されていない人、つまり自分で陽性と分かっていない人が3,000~4,000人くらいいることになります。1年間に新たにHIV陽性と診断される人数が多く、新たに感染する人数が少なければ、この診断されていない人数は減っていきます。

ですので、UNAIDSの目標をクリアするためには、HIV陽性の人が治療をしてU=Uの状態になることや予防行動(コンドーム使用やPrEPなど)の浸透などにより、新たに感染する人の数が減ることがまず重要です。そして、検査の機会が増えて未検査の人の割合が減っていくことによって、さらに目標に近づくことになります。

(注2)[1]Iwamoto, et al. 2017 Plos One e0174360 [2]Matsuoka, et al. 2019 Prev Med Rep 100994 [3]Nishiura 2019 Peer J 6275 [4]Nishiura, et al. 2024 Math Biosci Eng 4874

U=Uの認知度とリアリティ

日本ではHIV陽性とわかって治療を続けている人のうち、約99.6%の人のウイルス量が200コピー/mL未満を持続している(U=U)との調査結果があります(注3)。日本でもU=UによってHIVの流行に歯止めがかかり減少傾向に転じた部分が大きいと言っていいでしょう。

しかし、U=Uのことをみなが当たり前のように知っているわけではありません。2023年に新宿二丁目で行われた調査ではU=Uのことを正しく知っている人が58.2%で、「検出限界未満で感染しないというのは間違いだ」と回答していた人も22.3%いました(注4)。また、正しく知っているものの、実際にはHIV陽性の人とはセックスしたくないという人もいます。U=Uのことをしっかり理解することとともに、HIV陽性者がすでにたくさん身近なところに暮らしていているというリアリティを持つことも必要でしょう。

(注3)横幕ら、厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究, 「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」班 研究報告書(令和4年度)
(注4)akta×SUMMER BLAST 2023 性の健康についてアンケート(厚生労働省「コミュニティセンターを活用したMSMに対するHIV感染症の有効な普及啓発に関する研究」

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HIVが感染しなくなる!U=Uってなに?
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https://hiv-map.net/post/u-equals-u/

PrEPの認知度と使用実態

上述の新宿二丁目の調査では、PrEPの使用経験も聞いています。男性とのセックスを経験したことがある人のうち、PrEPを現在使用している人は14.3%、過去に使用したことがある人が10%でした。東京の新宿にある大きなゲイタウンである新宿二丁目での調査結果ですので、PrEPの使用割合が高めに出ている可能性もあります。例えば、PrEPの処方・検査をしてくれるクリニックが複数あるのは東京などの一部の大都市にのみですので、それ以外の地域での使用割合はもっと低い可能性もあります。

PrEPは正しく服薬すればHIV感染を予防する効果があります。PrEPに使われる抗HIV薬のうちツルバダの予防のための使用が2024年8月に承認されましたが、保険適用ではないため全額自己負担で使用するか、海外から輸入されたジェネリック薬を使用するなど、利用方法にはいまだに大きな制限があります。そのため、今後もっと広く普及していくかどうかには不透明な部分があります。

また、PrEPは、HIV・B型肝炎・腎機能・性感染症などの検査とともにセットで行うものです。すでにHIVに感染している人がそれを知らずにPrEPを使用すると、薬剤耐性が生じて治療が難しくなる恐れがあり、HIVの検査をして陰性を確認することが必要であることなど、PrEPには重要な注意すべきことがあるのです。しかし、実際には未検査でPrEPを使用していたり、自分が何の薬を飲んでいるのか知らない人もいるといったこともあり、PrEPに関する課題は多いといえます。

HIVマップポスト
HIVの新常識 HIVの感染を防げるPrEPってなに
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https://hiv-map.net/post/prep/

コンドーム使用率の激減

コンドームをいつも使っている人の割合が、この15年くらいの間に半減していることをご存じでしょうか?

MSM(男性とセックスをする男性)向けの複数の調査(注6)で、過去6か月にアナルセックスをしたときにコンドームを使用したかどうかを聞いています。

「いつも使っている」と回答した人の割合が、2008年には48.1%いましたが、2023年は19.9%でした。これだけ使用率が激減した理由が、実は明らかになっていません。考えられることとしては、この間に抗HIV治療の進化がありU=Uが証明されたこと、PrEPが日本でも使用されるようなったことがあります。しかし、U=Uの認知度は6割弱、PrEPの使用率は東京でも15%程度ということを考えると、それだけでは説明がつかない部分があるようにも思えます。

U=Uの証明とPrEPの導入を契機として、自らコンドームを使用しなくなった人、セックスの相手にあわせて消極的にコンドームを使用しなくなった人、周囲の人が使用しなくなったから自分もなんとなく使用しなくなった人など、異なるタイプの行動変容が合わさった結果なのかもしれません。

新たにHIV陽性と診断される人の数は、2008年以降は横ばいを経て減少傾向にあります。一方で、完全ではないにしろコンドームがある程度の予防効果を発揮していたであろう他の性感染症、特に梅毒は増加しています。コンドーム使用率が激減していることと、こうした状況がどういう関係があるのかはわかっていません。

HIVの予防方法がコンドーム使用に大きく依存してきた時代から、PrEPを含むさまざまな予防方法の中から自らがその方法を選択していく時代に入ろうとしています。しかし、この時代の入り口においても、コンドームは重要な予防方法であることには変わりません。いまだからこそ、コンドーム使用の有用性について再認識してみるよいタイミングなのかもしれません。

(注6)2008年:首都圏地域のゲイバー利用者を対象とした質問紙調査(厚生労働省・エイズ予防のための戦略研究。2023年は(注5)

HIV/エイズガイド
感染メカニズムとウィルスをうつさないセックスの仕方
HIV/エイズガイド
https://hiv-map.net/guide/chapter_2…

前編はこちら

編集:HIVマップ制作チーム
協力:国立感染症研究所
厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「エムポックスに関するハイリスク層への啓発及び診療・感染管理指針の作成のための研究」

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