HIVの新常識 HIVの感染を防げるPrEPってなに
January 30, 2023 Modified: 2024.09.18

PrEPのことをちゃんと知っていますか?
PrEPはHIV感染を予防できる方法の一つであり、日本でもゲイ・バイセクシュアル男性の約14%がPrEPを使ったことがあるという報告もあります。一方で、さまざまな課題も見えてきているようです。
まずは、PrEPとは何なのか、基本的なことからいっしょに確認してみましょう。
PrEPってどんなもの?
PrEPは、HIVに感染していない人が抗HIV薬を予防として服用し、セックスでのHIV感染を防ぐ方法です。Pre-exposure Prophylaxis(曝露前予防内服)の略称です。
日本でPrEPに用いられる抗HIV薬(ツルバダ またはデシコビ、またはその後発品)のうち、ツルバダについては2024年8月に予防のために使用することが国によって承認されました。しかし、予防のための使用が保険適用されたわけではありませんので、全額自己負担となります。また、国内で後発品(ジェネリック薬)は販売されていません(2024年9月現在)。そのため、海外からデシコビの後発品を輸入しているクリニックで処方してもらう人、個人輸入をしている人などがいます。

似たような言葉でPEP(Post-exposure prophyraxis:曝露後予防内服)がありますが、PrEPとは異なりますので混同しないようにしましょう。
PrEPの服薬方法
PrEPはHIV感染症の治療に使われている抗HIV薬(ツルバダ またはデシコビ、またはその後発品)を、HIV感染予防のために使います。
PrEPの服薬方法は主に「daily」と「on demand」の2つがあります。
daily
毎日1回1錠を継続して服薬する方法。
on demand
セックスの前後をはさみ、2~24時間前に2錠、最初に服薬した24時間後に1錠、最初の服薬から48時間後に1錠と、複数回に分けて服薬する方法。この方法ではセックスをするタイミングに服薬を限定できるが、スケジュール通りに行うことがより重要となる。
on demandの服薬方法は、現時点ではMSM(男性とセックスをする男性)においてのみ効果が立証されています。
なお、HIV感染症の治療には抗HIV薬の複数の成分を組み合わせたものを服薬します。PrEPはHIV感染症の治療用の処方とは異なるため、治療にはならない点に注意が必要です。
どんなひとがPrEPを?
PrEPは、コンドーム使用などと並んでHIV感染の有効な予防手段の一つです。世界でも日本でも同様に、HIVに感染する可能性のある人にとって、PrEPは予防手段の一つと考えられるようになってきています。
例えばエイズ治療・研究開発センターのSH外来(ゲイ・バイセクシュアル男性を対象に性感染症の検査と治療を行う専門外来)では、PrEPが推奨される対象として以下をあげています。
- パートナーがHIVに感染しているが適切な治療を受けていない
- 最近性感染症にかかった
- セックスをする相手が多い
- コンドームを使わないことがある
- 性風俗業に従事している
また、PrEPの対象となる人の条件として、以下をあげています。
- HIVに感染していない
- HIV感染のリスクがある
- 成人である
- 腎臓機能に異常がない

予防効果はどれぐらい?
MSM(男性とセックスをする男性)を対象としたいくつかの国際的な実証研究(注)によると、コンドームを使用しないセックスにおいて、PrEPは90%以上の予防効果を示しました。この数字にはきちんと薬を飲めていなかったケースも含まれていたため、正しく薬を飲めていたケースにしぼった場合の予防効果はずっと高く、ほぼ100%と考えられています。
公衆衛生の視点でも、PrEPによって、新たにHIVに感染する人の数を減らすことができると考えられるため、HIV予防の「ゲーム・チェンジャー」としてPrEPへの関心が高まっています。
PrEPとコンドームの違いは?
「PrEPか、コンドームか」といった、二者択一のものではありません。選ぶことのできる予防の方法が増えて、互いに補いあうような関係だと考えるべきでしょう。PrEPにもコンドームにもメリットもデメリットもあるので、自分に合った方法を選択したり組み合わせたりすることが大事です。
PrEP
事前に服薬をすることでHIVの感染予防ができます。感染リスクをセックスの相手まかせにせず自分自身でコントロールできるため、コンドームが使用できない・したくない人にとっても選択肢の一つとなりえます。一方で、PrEPにはデメリットも存在します。薬剤費が高額、計画的な服薬とその準備が必要、自己責任で未承認薬を服用する場合には副作用への救済制度(医薬品副作用被害救済制度)がない、他の性感染症は予防できないなどです。
コンドーム
安価で手軽であるというのが最大の特徴で、PrEPのように事前に知識や準備を必要としません。また、HIVだけでなく他のいくつかの性感染症に対しての予防効果も期待できるのも重要なポイントです。しかし、コンドームを使うことで「気持ちよくない」「ノリが悪くなる」「ナマでヤりたい」など、感じる人もいます。また、ウケ側からするとコンドームをつけるかどうかはタチ主導になってしまうこともこともあり、「主体的に予防をしにくい」と感じる人もいます。

PrEPは検査・診察・服薬を
セットで!
PrEPの服薬方法はHIVの「治療」としては不十分であり、HIVに感染している人がPrEPを続けていると薬剤耐性ができる可能性があります。そのため、PrEPの開始前と開始後にも必ず定期的なHIVの検査を受ける必要があります。また、他の性感染症や肝炎の検査や腎機能の検査を受けることも重要です。
PrEPの開始後は、3ヶ月に1回の検査・診察が必要となります。薬は健康保険の適用外ですが、PrEPの開始・継続に必要な検査や相談を行う「見守りクリニック」を利用することもできます。また、まだ首都圏や大阪、広島、札幌、沖縄などに限られていますが、PrEPに必要な薬を購入できるクリニックもあります。PrEPは、服薬するだけではなく、定期的な検査と診察を行うこともセットだと考えるといいでしょう。


PrEP 3つの重要ポイント
PrEPは、HIVに感染していないと確認できている人が服薬するものです。PrEPを開始前も開始してからも、必ず定期的にHIV検査を受けましょう。
PrEPはHIVに限った予防方法のため、他の性感染症を予防することはできません。性感染症の検査を定期的に受けることが大切です。
PrEPは医薬品である抗HIV薬を服用するものです。薬を飲むだけでなく検査や診察も必要です。
(注)
MSM(男性とセックスをする男性)を対象としたPrEPに関する実証研究
iPrEx
Grant RM, Lama JR, Anderson PL, et al. Preexposure chemoprophylaxis for HIV prevention in men who have sex with men. N Engl J Med. 2010;363(27):2587-99.
PROUD
McCormack S, Dunn DT, Desai M, et al. Pre-exposure prophylaxis to prevent the acquisition of HIV1 infection (PROUD): effectiveness results from the pilot phase of a pragmatic open-label randomised trial. Lancet. 2016;387(10013):53-60.
IPERGAY
Molina, Jean-Michel, Catherine Capitant, Bruno Spire, Gilles Pialoux, Laurent Cotte, Isabelle Charreau, Cecile Tremblay, et al. 2015. “On-Demand Preexposure Prophylaxis in Men at High Risk for HIV-1 Infection.” The New England Journal of Medicine 373 (23): 2237–46.
テキスト・文責:HIVマップ制作チーム
構成:池内