「コロナもエイズもインフルも同じ『五類』!?」感染症法ってなぁに? わかりやすくまとめてみました
February 28, 2025 Modified: 2025.02.28

「エイズの検査は匿名でできます」
「コロナに感染したら保健所から電話が…」
「梅毒が若い女性の間で増えています」
「HIVは男性間性的接触での感染が多い」
「エムポックスの感染者のほとんどが男性」
「インフルエンザの定点報告によると…」
きれぎれこんな話を聞いたことがあるけど、
どうしてこういうことがわかるのでしょう?
感染症にかかったら私たちの個人情報って
どう扱われているのでしょうか。
匿名なの?実名なの?年齢や性別は?住所や家族構成は?
もしかして感染経路やセクシュアリティも聞かれる?
全数報告とか定点報告ってなに?
今回は、そんな疑問をひも解いたうえで、
ゲイバイセクシュアル男性に役立つようにまとめてみました。
感染症の流行を把握するしくみ

「インフルエンザが流行っています」とか、「梅毒に感染したひとが急増」などのニュースを見聞きすることがありますが、誰がどのように感染症の流行を把握しているのでしょうか。
日本では感染症法(注1)という法律に基づいて、診断した医師・獣医師が該当する感染症(100種以上)の届け出をすることが義務づけられています。それらの情報は、保健所から都道府県を経て、厚生労働省(国立感染研究所 感染症疫学センター)に集約されます。これら一連のことを感染症サーベイランス(発生動向調査)といい、感染症法に基づいて行われています。
集約された結果は、集計データとその分析に基づくレポートとして国立感染症研究所から公開され、国民にフィードバックされます。個人情報が公開されることはありません。また、より良い感染症対策を講じるために生かされることになります。
感染症法:正式名称は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」。 1998年に「伝染病予防法」、「性病予防法」、「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律(エイズ予防法)」を統廃合して制定された。

危険性などによって分類されている感染症
感染症法では、さまざまな感染症をおもに一類感染症~五類感染症という5つに分類しています(その他、指定感染症、新型インフルエンザ等感染症もあります)。
厚生労働省による感染症法上の位置づけに関する資料(注2)などを見てみると、感染力が強く、感染した場合に死に至ったり重篤な状態になったり、有効な治療方法がないものが一類感染症です。例えば、日本では発生したことがありませんが、エボラ出血熱などです。それに次ぐものが二類、そして三類(食べ物などから感染するもの)、四類(動物や昆虫などを介するもの)、五類(多くの場合は軽症、毎年のように多発している一般的なもの)となっています。
感染症法では、危険度や影響などが大きい感染症の感染者(一部は感染が疑われる人)の行動制限などができるよう規定されています。例えば、一類・二類の感染者には強制的に受診・入院させることや就業制限が認められています。三類では就業制限、四類では動物の駆除などが認められていますが、五類ではそのような行動制限は認められていません。社会全体を守るために、一時的にでも個人の権利を制限することになりますので、その必要性に見合うように厳格に感染症法で規定されているのです。
また、届出が全数か一部のサンプルのみか、その迅速性や頻度も異なります。一類から四類の感染症は、「診断したすべて(全数)をただちに届け出る」ことになっており、五類は、一部が「診断したすべて(全数)を7日以内」、一部が「定点医療機関(注3)で診断したすべてを週単位/月単位で届け出る」ことになっています。
感染症法に基づくおもな分類**
分類** | 特徴 | 主な感染症 | 届出 | 個人情報 |
---|---|---|---|---|
一類 | 危険性が極めて高い | エボラ出血熱、ペスト、ラッサ熱など | 全数 ただちに | 含む |
二類 | 危険性が高い | 結核、SARS、MARS、鳥インフルエンザ(一部)など | 全数 ただちに | 含む |
三類 | 集団食中毒などを引き起こす | アナルに挿入する(挿入される人のウイルス量が検出限界未満) | 全数 ただちに | 含む |
四類 | 動物や昆虫などを介するもの | A型肝炎、マラリア、狂犬病、エムポックス(旧称:サル痘)など | 全数 ただちに | 含む |
五類 | 危険性は高くないが、感染拡大の防止が必要 | 麻しん(はしか)、風しん、後天性免疫不全症候群(HIV/エイズ)、梅毒、B型肝炎、C型肝炎、アメーバ赤痢など | 全数 7日以内* | 含まない* |
インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、淋菌、クラミジアなど | 定点 週・月単位 | 含まない |
**一類~五類のほかに、指定感染症、新型インフルエンザ等感染症がある
定点医療機関:地域の流行状況についての傾向を把握できるように選ばれた医療機関。「小児科定点」、「性感染症定点」など感染症の種類によって異なる定点医療機関が、保健所の管轄エリアごとに定められている。

個人情報を届け出る?届け出ない?
届け出る内容や項目は、感染症法や施行規則等というものに基づいて感染症ごとに決まっています。氏名・住所などの個人情報を含むものもあれば、含まないものもあります。
届出様式(書式)は感染症ごとに異なります。届出日や診断時期など共通項目の他に、診断方法や症状など医学的な内容を記載する欄があるものもあります。ここでは個人情報や感染経路に絞って、いくつかの届出様式の記載項目を抜粋して取り上げてみます。
自治体により独自の追加項目がある場合があり様式が多少異なりますので、一例として東京都の届出様式を参考にしました。
エボラ出血熱 [一類 全数をただちに届け出る]
個人情報 | 氏名 性別 生年月日 住所 電話番号 職業 |
---|---|
感染経路 | 接触感染(接触した人・物・動物の状況)、感染した国・地域(市町村)など |
その他 | 渡航歴の有無 |
結核 [二類 全数をただちに届け出る]
個人情報 | 氏名 性別 生年月日 住所 電話番号 職業 |
---|---|
感染経路 | 感染経路、感染した国・地域(市町村) |
その他 | 同居人の有無 |
エムポックス(旧称:サル痘) [四類 全数をただちに届け出る]
個人情報 | 氏名 性別 生年月日 住所 電話番号 |
---|---|
感染経路 | 接触した人・物・動物の種類や状況、感染した国・地域など |
一類から四類の感染症はすべて、氏名・性別・生年月日・住所などの個人情報が届出に含まれます。さらに、感染したときの状況・経路(どこで、誰からなど)についての記載欄もあります。これらの情報は、守秘義務が課されている公衆衛生の専門家(保健所など行政の職員)が、感染源や感染の広がりを調べて、患者のケアや感染拡大の抑止のために役立てます。
新型コロナ感染症が二類相当だった2024年4月までは、「コロナと診断されたら保健所から電話がかってきた」という経験をした人も少なくないでしょう。二類相当だったため、個人情報が届け出られていたのです。結核やエムポックス(旧称:サル痘)などでも同様で、届け出られた個人情報に基づいて保健所などの職員が本人やその周囲に連絡をとることがあります。
HIV/エイズ(後天性免疫不全症候群) [五類 全数を7日以内に届け出る]
個人情報 | 性別 診断時の年齢 国籍 居住地(都道府県のみ) |
---|---|
感染経路 | 性的接触 (同性間/異性間)、静注薬物使用、母子感染など |
その他 | HIV感染者とエイズ患者の区分、感染した国・地域(都道府県のみ) |
梅毒 [五類 全数を7日以内に届け出る]
個人情報 | 性別 診断時の年齢 |
---|---|
感染経路 | 性的接触(性交/オーラル)(同性間/異性間)(性風俗の利用/従事の有無)、静注薬物使用、母子感染など |
その他 | 病型(Ⅰ期 Ⅱ期 晩期 先天梅毒 無症候)、梅毒の過去の治療歴、HIV感染の有無、妊娠の有無、感染した国・地域(都道府県のみ) |
HIV/エイズ(後天性免疫不全症候群)はどうでしょうか? 「保健所では匿名でHIV検査を受けられる」と聞いたことがあるかと思います。保健所でHIV陽性という検査結果が出ても、氏名・住所などの個人情報を聞かれることはありません。HIVの届出様式にはこのような個人情報を記載する欄がないのです。また、病院で実名のカルテを作ったうえで、HIV検査をして陽性だったとしても、個人情報が届け出られることはありません。
HIV/エイズの届出様式には、性別、診断時の年齢(生年月日ではない)、国籍、居住地(都道府県までの記載)は含まれます。その他、感染経路(同性間性的接触、異性間性的接触、母子感染、薬物静脈注射など)の項目があります。
また、梅毒の届出には、感染経路の項目に性風俗の利用/従事の有無などもあります。それぞれの感染症に合わせた特徴的な項目があったりもするのです。
性器クラミジア [五類 定点医療機関で1か月に1回届け出る]
個人情報 | 性別 診断時の年齢層(5歳ごとの年齢層群) |
---|---|
感染経路 | なし |
インフルエンザ及び新型コロナウイルス感染症(2023年5月以降) [五類 定点医療機関で1週間に1回届け出る]
個人情報 | 性別 診断時の年齢層(10歳未満は年齢) |
---|---|
感染経路 | なし |
さらに、性器クラミジアなどの性感染症の多くや、インフルエンザなどの一般的な感染症については定点報告となっており、その届出内容もきわめてシンプルです。定点報告とは事前に定めておいた定点医療機関のみが届出を行うことです。届出の内容は性別や年齢など、頻度は1週間に1回、または1か月に1回となっています。
ちなみに、新型コロナ感染症は2024年5月に五類の定点報告となったため、それ以降は個人情報の届出がなくなりました。
ゲイバイセクシュアル男性にとっての性感染症
ゲイバイセクシュアル男性にとっては、HIVやその他の性感染症がどれくらい流行っているのかも、気になることだと思います。
HIV/エイズ、梅毒、B型肝炎、C型肝炎、アメーバ赤痢(以上は五類 全数報告)、性器クラミジア、淋病、尖圭コンジローマ(以上は五類 定点報告)、エムポックス(旧称:サル痘)、A型肝炎(以上は四類)などについても、国立感染症研究所より定期的にサーベイランスのデータが公開されます。HIV/エイズについては、国立感染症研究所と厚生労働省のエイズ動向委員会からそれぞれから毎年レポートが発表されています。
さらに、特異な動向がある場合には、国立感染症研究所からその都度レポートが発表されています。例えば、ゲイバイセクシュアルの性の健康に関係することでは、2018年のA型肝炎、2020年代の梅毒、2023年のエムポックス(旧称:サル痘)などがあります。



ただし、これらのレポートは広く国民が理解するには難しすぎる内容になっていることが多いです。さらに、これらの情報を元にかみ砕いた報道が十分になされるとは限らないうえ、ゲイバイセクシュアル男性に役立つ形で報道されることはとても少ないのが現状です。
性感染症に関しては、ゲイバイセクシュアル男性に特有の流行があることが少なくないですし、感染しうる性行為や優先すべき検査が、ヘテロセクシュアル(異性愛)の男女などとは異なる場合があるのです。そのため、ゲイバイセクシュアル男性に特化した情報提供がなされないと役に立たないことが多く、場合によっては誤解が生じることもあり得ます。一般的な報道を読むときには、この点を考慮しておいたほうがよいでしょう。
そのため、このHIVmap POSTでは、ゲイバイセクシュアル男性の性の健康に特化した形で役立つ情報の提供を続けています。



感染症サーベイランスからなにがわかる?
公表された感染症サーベイランスの情報を、私たちどのようにして理解すればいいのでしょうか?
「昨年の梅毒の感染報告数は〇〇〇〇人で過去2番目に多くなりました」
「HIV感染が新たに確認された人は〇〇〇〇人で、〇年ぶりに増加した」
「定点医療機関で〇〇~〇〇日に報告されたインフルエンザの新規感染者数は〇〇万〇〇〇〇人で、定点あたり〇〇.〇〇人だった」
新聞やインターネットなどのメディアで、このような文章を見かけることがあります。もう少しその前後の説明がなされていることもありますが、数字が意味するところがよくわからないままに、ただただ数字だけが「多い」「少ない」「増えた」「減った」という話に終始してしまうこともあるようです。
これらの報道のデータは、国立感染症研究所から発表されていている感染症サーベイランス報告が元になっています。サーベイランスというのは発生動向調査のことで、同じ方法で継続的に収集された情報が長期にわたって得られるのが特徴です。ですので、感染症サーベイランスからわかることの一つはトレンド(中長期的な動向・傾向・趨勢)です。「この10年くらいは増加傾向にある」とか、「今年も例年と同様の季節変動を繰り返している」など、中長期的に見た場合の動向がわかります。
単独の数字(例えば、「2025年 第1週は〇〇〇〇件」など)は、連続したデータの中の1点に過ぎません。ですので、単独の数字を見て一喜一憂すべきではないのです。過去のデータとつなぎ合わせたり比較したりして、はじめてトレンドが見えてくるからです。私たちがトレンドを知るためのコツとしては、新規の数字だけでなく、その背景や中長期的な動向とともに伝えている報道を選ぶことが大事です。文章にグラフが添えられているとより良いでしょう。
感染症サーベイランスからわかる大事なことのもう一つは、特異な動きです。サーベイランスで長期的なトレンドをつかんでいるため、何か特別な変化があった場合に察知することができます。例えば、コロナ禍に人との接触が少なかった子どもたちの間で、2024年にヘルパンギーナという感染症が大流行しました。あるいは、もともとアフリカのみで流行していたエムポックス(旧称:サル痘)が日本でも2023年に感染拡大しました。こういった今までにない特異な動向を察知することが可能なのです。
新しい感染症や新たなタイプの流行については、まだ性質や背景がよくわかっていない場合があります。そのため、情報が随時更新されていくことを意識して記事を読むとよいでしょう。いつ発信された記事なのかを確認することも大事です。
テキスト・文責:HIVマップ制作チーム
協力:国立感染症研究所
厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「エムポックスに関するハイリスク層への啓発及び診療・感染管理指針の作成のための研究」