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Chottoshita Otegami ya Chirashi

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新宿で開催!今年の日本エイズ学会の会長にインタビュー!

February 2, 2024 Modified: 2024.02.02

今年11月、西新宿の京王プラザホテルを会場として、日本エイズ学会学術集会・総会が開催されます。この会長として、HIVマップを運用している、NPO akta の理事長 岩橋さんが選出されました。今回は多分に手前味噌な感じもしてしまいますが、会長としての岩橋さんにインタビューしてみました!
エイズ学会の先進性とは?コミュニティが果たす役割とは?そして新型コロナやエムポックス(サル痘)など新しい感染症とHIV/エイズの歴史との関係とは?!

――そもそもエイズ学会ってなんなんですか?

HIV/エイズの治療とか予防とか、基礎研究とかいろんなことにコミットする人が参加するHIV/エイズに関する日本最大の学会です。
基本的には学会って専門家が集まってディスカッションすることになってるんだけど、この学会の特色は「当事者が参加すること」を設立当初からすごく大事にしていることなんです。

――当事者って誰のことを指してるんですか?

ここで言う当事者は主に二つ。
一つはHIV陽性の当事者です。病気のことを取り扱う学会だからこそ、90年代のはじめから病気そのものに直面している人たちを抜きに話をしないことを長年大事にしてきています。

それから、もう一つの当事者はエイズ対策のキーになる人たち。
HIVは誰でも感染しうる病気だけど、特定集団に感染しやすいという傾向があります。それは、私たちゲイ・バイセクシャル男性やトランスジェンダー、セックスワーカー、日本に住む外国籍の人、薬物使用者などで、そういった人たちを以前はHIVに感染しやすい「ハイリスク層」という言い方をしていました。
しかし、「ハイリスク層」なんて他人事ごとのような、まさに当事者不在でやっても意味がない。リスクがある人たちに何が必要なのかを知っているのは専門家ではなくリスクの中で生きている人たちですよね。そういう当事者の自主性をちゃんと明らかにして、「リスク層」じゃなくてエイズ対策のキーとなる人たちとして、いまは「キーポピュレーション」という呼び方をしています。

このような当事者が積極的に参加していく研究や対策は、昨今ではがんの研究を始めとして幅広くいろいろな病気に対して当てはめられるようになってきているんですが、エイズ学会ではずっと以前からこの先進的な枠組みを取ってきました。

――どんな専門家が集まってどんなディスカッションをするんですか?

エイズ学会は専門家を3つの柱に分けています。
一つは臨床。病院のお医者さんや看護師さん、薬剤師さんなどが、治療やケアについてディスカッションする臨床の柱です。
2つ目は基礎研究。ウイルス学や微生物学、薬学などの研究者の人たちが、病気としてのHIVの仕組みやウイルス、新薬の開発などについてディスカッション。
3つ目が、わたしたちのような社会に向けて活動をしている当事者やNPO、感染症が社会にとってどんな影響をしているか研究している人たち、病気の影響を受けている人たちをサポートする制度や施策を実施する行政の人たちが、予防とケアについてディスカッションしています。

さらに、海外からも重要なゲストを呼んでいます。国内にとどまらず海外での視点をわたしたちに活かすことが期待されます。

――今回はなんで新宿でやることになったんですか?

一言でいうと、新宿二丁目でcommunity center aktaを運営しているNPO法人 aktaの理事長 岩橋が、会長を拝命したから、新宿でという形です。

デリヘルや、LivingTogetherの取り組みなど新宿二丁目を中心にゲイ・バイセクシャル・LGBTQ+の皆さんと一緒に、みゃくみゃくと続けられてきた予防・ケアの取り組みが、歴史を持つ学会からも評価を得ているから、ということになると思います。

さらに、会長が具体的な会場の選定から関わることができるのですが、せっかくだからコミュニティの人たちと学会を結びつける機会を作りたいと思ったので、会場選びとしては新宿区内にこだわりました。
あまり知られてないかもしれないけど、日本のエイズを考えると新宿区には重要なNPO、病院・医療機関、活躍する保健所、研究機関などがたくさんあります。その点も「新宿」という場所にこだわった理由です。
学会と関連するいろいろなイベントの中で、関わっている人たちにもスポットライトがあたって、より強固なネットワーク化ができるといいと思っています。

――新宿二丁目やゲイ・バイセクシャルの人たちには、新宿で開催されるこの学会はどう役に立つんですか?

これからのエイズ対策や、性の健康に必要なことに対して、ゲイ・バイセクシャル・LGBTQ+コミュニティやキーポピュレーションの人たちの声を反映させやすい機会とすることができると思います。
学会は国際学会も、日本の学会もそうですが、研究のお祭り的な側面・その場限りで終わっちゃう側面も持ちますが、その地域の課題への注目を集めるという役割もあります。
注目を集める、その地域に今ある問題をもう一度掘り下げて、学会自体を問題解決のきっかけとする、ということにも、その土地が選ばれることの意味があるんです。

どんなエイズ対策が必要なのか?どんな性の健康が必要なのか?といったことをしっかり議論するときに、学会がある地域で行われることでその地域が抱える課題とも深く結びつく。このことによってゲイ・バイセクシャル・LGBTQ+やキーポピュレーションのコミュニティの声を反映しやすい機会とすることができるかと思います。

――今回の学会で掲げているテーマがあるそうですね

はい、今回の学会では2つのテーマを置いています。
一つは、「HIVに関わるすべてのコミュニティをエンパワー」っていう、横文字多めのちょっとふわっとしているように聞こえるメッセージなんですが(笑)
これはちょっと背景の説明が必要で、まず、「すべてのコミュニティ」。2030年までに、「公衆衛生上の危機としてのエイズ流行の終結」を目指すということを、世界でも日本でも目標としている。単純に「エイズ流行の終結」ではなく、頭に「公衆衛生上の危機としての」がついているのはどういうことかっていうと、まだHIV自体の完治は難しい状況で、新規のHIV感染をなくすのを目指すと同時にHIV陽性の人たちが健康で長生きできる状況を実現することが必要だからです。その時に大切なのが先程の「キーポピュレーション」のところでも話題に出た「コミュニティ」。今までの日本のHIVの文脈では、ゲイ・バイセクシャル男性にフォーカスしがちだけど、トランスジェンダー、日本に居住する外国籍の人、薬物使用者、セックスワーカーのひとたちなど、より広い人たちを取り残さないということにおいてとても大切なキーワードになっています。それが「HIVに関わるすべてのコミュニティ」。

一方で、完治はしないものの薬でコントロールができるようになってきて、それ自体はとてもいいことなんですが、病気との戦いは終わってはいません。しかし、状況が変わったことから、どうしてもエイズに対して関心を持たれる優先順位が変わってきている。簡単に言えば社会の関心は薄くなっています。社会やコミュニティでも、エイズに対して関心が持たれてないために、取り組みが必要だからこそ続けているにも関わらず、関わる人たちがみんな疲れてしまっている。それは医療者や研究者も含めてそうした面があるのではないでしょうか。
なので、コミュニティを力づけ、応援すること、エンパワメントが必要、というのが一つ目のテーマ。

――もう一つ重要なテーマがあるそうですね?

もう一つは「感染症による人々の分断を解決する」ということ。
ここ数年、新型コロナでもエムポックスでも新たな感染症が流行すると、「感染してる/していない」という分断が繰り返されてきた。これはエイズで、80年代からみんな見てきたことだったのに。感染症によって人々が分断されるということに、再度直面している。

80年代から90年代初頭に、エイズで沢山の人たちが亡くなる中で、でもセックスを続けていくための工夫として産まれたのが「セーファーセックス」。例えばコンドームを使うことで、HIVを持っていても持っていなくても、感染が起こる可能性を下げてセックスを続けよう、という言わば分断を越える方法だったはずなんですよね。

そして、U=Uが科学的に立証され、PrEPが普及しつつある2020年代、いまだからこそ直面する課題があります。新しい予防法があるから、もうこれでエイズの問題は解決というわけではないのです。HIV陽性者が排除されない社会の実現、PrEPをもっといろいろな人が安心して使えるようにしていくことも重要です。伝え続けていくことが必要です。

状況は変化しているから、過去だけにこだわる必要はないけれども、歴史の積み重ねから学べることはもちろんあって、HIVに関わってきた人たちが、作ったり見つけたりしてきたちょっとしたノウハウや工夫、つちかってきた姿勢を未来に生かし、感染症による人々の分断を解決するための方法を見つけられたらいいなと思っています。

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