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【徹底解説】PrEP:ツルバダが薬事承認されて、何がどう変わるのか?

October 31, 2024 Modified: 2024.12.18

PrEPで使用される薬には、ツルバダとデシコビという2種類があります。そのうち、ツルバダだけが、2024年8月28日に日本で薬事承認されました。

PrEPの服用方法(デイリー or オンデマンド)によっても異なりますが、今回の薬事承認が今後のPrEPの利用環境に大きな影響を与えることになります。

法律(薬機法)や健康保険制度の運用上の課題、厚生労働省による輸入規制、製薬会社の経営姿勢など、さまざまなことにかかわる話です。そのため、全容を正確に把握するのは難しいですが、現在わかっていることを、主にゲイバイセクシュアル男性に役立つように、整理してお伝えします。

ツルバダの薬事承認ってどういうこと?

薬事承認とは、薬機法(注1)に基づき、医薬品や医療機器の製造販売を厚生労働大臣が承認することです。有効性や安全性などの審査を独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)が行ったうえで、最終的に厚生労働大臣が承認をするという流れになりなります。

薬事承認は、効能・効果や用法・用量などを限定しての承認であるため、承認された目的以外で使用をするためには、さらに適用外の承認が必要になります。ツルバダはHIV感染症の治療薬としてすでに承認されている薬ですが、今回は、あらためて予防(PrEP)を目的とするための申請が行われ、8月28日に承認されたのです。

薬事承認されたことによって、ツルバダはHIV感染症の治療薬であるだけでなく、PrEPの薬として公的に認められたことになります。これにより、医療機関などでもPrEPについて情報提供をしやすくなるなどの良い影響はあるものと考えられます。また、今後はPrEPでツルバダを使用した場合に、もしも副作用により健康被害があった場合には医薬品副作用被害救済制度(注2)の対象になります。

ただし、今回PrEPとして承認されたのはツルバダ(先発品)のデイリー服用のみです。ツルバダのジェネリック薬(後発品)、デシコビ(先発品)、デシコビのジェネリック薬(後発品)は含まれません。

(注1)薬機法:正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。略して「医薬品医療機器等法」または「薬機法」と称されることが多い。2014年に旧「薬事法」が改訂された際に名称変更された。

(注2)医薬品副作用被害救済制度:医薬品を適正に使用したにもかかわらず、その副作用により入院治療が必要になるほど重篤な健康被害が生じた場合に、医療費や年金などの給付を行う公的な制度。

薬事承認と保険適用は“べつもの”だって知ってる?

保険適用とは、厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)の審査を経て、薬や治療法などが健康保険からの給付対象として認められることです。その薬や治療法が保険適用となると、健康保険から費用が一部負担されるため、患者の負担は原則3割(乳幼児や70歳以上は1~2割の人もいる)となります。上述の薬事承認とはまったく別の手続きですので、薬事承認されたからといって保険適用になるとは限りません。

ツルバダの場合、HIV感染症の治療としては従来から保険適用を受けています。ですので、ツルバダを使った治療は保険医療となり、さらに医療費助成制度により患者負担は低く抑えられています。しかし、ツルバダは予防(PrEP)としては保険適用を受けていないので、健康保険による費用負担はなく、全額自己負担となります。薬価が1錠2,442.4円で、もしも1日1錠を全額自己負担で飲むとすると、1か月で7~8万円以上かかることになります(2024年4月現在)。日本の医療保険では慣習的に予防は保険適用外であるため、現時点ではこの状態が今後も続く可能性が高いと考えられています。

国内でツルバダのジェネリック薬(後発品)がリーズナブルな価格で販売されることが望まれますが、現時点でその見通しは不明です。

オンライン署名サイトChange.org
HIV感染を薬で予防する方法、PrEPを日本でも当たり前の選択肢に! SAPプロジェクト(Safe Access to PrEP)
オンライン署名サイトChange.org
https://chng.it/KnzQfVx4Vv

ツルバダとデシコビってどう違う?

ツルバダはもともとHIV感染症の治療薬で、日本でも多くのHIV陽性の人が飲んでいた薬です。しかし、長期間この薬を飲み続けると骨密度の低下や腎機能障害が起きる人がいることがわかりました。これらの課題をふまえてウイルスを抑える効果などは変えずに、長期的に飲み続けることによる副作用が改良されたのがデシコビです。

そのため、日本では治療薬としてツルバダを飲んでいたHIV陽性の人の多くが、すでにデシコビなどの薬剤に変更をしてしまいました。つまり、HIV感染症の治療として長期的に飲み続ける薬としては、ツルバダよりデシコビのほうがより良いと認識されているということです。

それでは、ツルバダよりデシコビが劣ってわけではないのに、なぜツルバダだけがPrEPとして薬事承認されて、デシコビはされなかったのでしょうか? それは、ツルバダのほうが古い薬で、デシコビはそれにくらべると新しい薬なので、使用実績に差があるからです。米国でも、ツルバダがPrEPとして承認されたのは2012年ですが、デシコビは2019年で、7年も時間差がありました。日本でも同様に先行したのはツルバダということになり、デシコビが日本でもPrEPとして承認されるかどうかは現時点では不明です。

デイリーとオンデマンドに関するエビデンス

PrEPにはデイリーとオンデマンドという2つの方法があることはご存じかと思います。このことがツルバダ承認後、PrEPがどうなっていくかを理解するうえでのポイントとなります。PrEPは、いくつもの国際的な実証研究によってその予防効果が証明されていますが、デイリーかオンデマンドかによって、効果が証明されている薬が異なるのです。

デイリーであれば、ツルバダでもデシコビでも効果が証明されています。しかし、オンデマンドの場合は、ツルバダでは効果が証明されていますが、デシコビは現時点では証明されていないのです。「日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)利用者ガイド」でもデシコビはオンデマンドでは使用できないと書かれています。しかし、デシコビが比較的新しい薬であるため、まだ証明されるに至っていないだけで、実際にはオンデマンドでも問題なく使用できるのではないかと考えている医療者も少なくはないようです。

PrEPの予防効果のエビデンス(ゲイバイ男性の場合)

ツルバダデシコビ
デイリー
オンデマンド×
「日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)-利用者ガイド- 第1版」より

また、ツルバダは、ゲイバイセクシュアル男性だけでなく異性愛男性も対象ですし、デイリーであれば女性やトランス男性(FtM)なども対象となっています。しかし、デシコビの場合は、女性やトランス男性(FtM)などが対象外となっているという課題もあります。

PrEP in JAPAN
PrEPポケットガイド
PrEP in JAPAN
https://prep.ptokyo.org/eBook/prep_…
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HIVの新常識 HIVの感染を防げるPrEPってなに
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https://hiv-map.net/post/prep/

ツルバダのジェネリック薬の輸入はどうなる?

ツルバダが薬事承認される以前は、PrEP利用者の一定数が海外で製造され輸入されたツルバダのジェネリック薬(後発薬)を購入していました。上述した通り、ツルバダ(先発薬)の日本での価格が非常に高いためです。

しかし、ツルバダがPrEPとして薬事承認されたため、ツルバダのジェネリック薬(後発薬)のクリニックや国内業者による輸入は不可能になってしまいました。それは、厚生労働省の地方厚生局が、「国内に代わりの薬剤が流通していない場合に限って輸入を認める」として、輸入規制をかけているためです。ツルバダの薬事承認の前は、PrEP用の薬剤は国内に“ない”ということになっていたわけですが、承認後は国内にツルバダ(先発薬)が“ある”ので、輸入が認められなくなったということです。

ただし、自分で使用するものを、国外から個人輸入するのであれば、一定の数量制限のもと安価にツルバダのジェネリック薬(後発薬)を入手することが可能であると考えられます。しかし、品質の保障がない(偽薬などの可能性を排除できない)、注文してから手元に届くまでに日数がかかる、検査や診療がセットになっていないため自己管理のもと主体的に行なう必要があるなど、デメリットや工夫が必要であることも事実です。これらはすべて自己責任において行うことになります。

一方、デシコビは国内でPrEPとして承認されていないため、ジェネリック薬の輸入は、クリニックや国内業者を含めて以前と同じように行うことが可能です。いままでツルバダを使用していた人にとっては、デシコビへの変更を検討する機会となるかもしれません。

ツルバダ承認後のPrEP利用の選択肢

ツルバダ(先発薬)が薬事承認されたいま、PrEPの薬剤入手方法の現実的な選択肢をまとめました。
いずれの場合にも、薬の入手だけでなく、診察と検査(HIV検査、肝炎、腎機能、骨密度、他の性感染症の検査など)が不可欠なので、併せて検討する必要があります。

デイリーの場合

  1. ツルバダの先発薬を処方してもらい服用する。
  2. デシコビのジェネリック薬を、クリニックや国内輸入業者から入手して服用する。
  3. ツルバダのジェネリック薬を、自己責任で個人輸入して服用する。

オンデマンドの場合

  1. ツルバダの先発薬を処方してもらい服用する。
  2. デシコビのジェネリック薬を、クリニックや国内輸入業者から入手して服用する。ただし、オンデマンドでの予防効果は証明されていないため、それを理解したうえでの利用方法とする。
  3. ツルバダのジェネリック薬を、自己責任で個人輸入して服用する。

ツルバダとデシコビの比較

ツルバダデシコビ
予防効果のエビデンス[デイリー]*
予防効果のエビデンス[オンデマンド]*×
薬事承認(PrEP)×
保険適用×(全額自己負担)×(対象外)
長期的な副作用(腎障害、骨密度低下)あるほとんどない
副作用の救済制度〇(先発品のみ)×
ジェネリック薬の輸入(クリニック、国内輸入業者など)×
ジェネリック薬の輸入(個人輸入)
*ゲイバイ男性の場合

医療監修:谷口俊文(千葉大学)
テキスト・文責:HIVマップ制作チーム

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