日本のAIDS流行終結を一緒に目指そう!パレードを通して当事者が自らメッセージを伝える「#UpdateHIV」フロート
July 15, 2024 Modified: 2024.09.24
photo :Rody Shimazaki
「Update!」
ドラァグクイーンであるラビアナ・ジョローの呼びかけに、フロートと呼ばれる先導車(山車)に続く250人の参加者が応えた。
「HIV!」
代々木公園(東京)で2日間に渡り開催※1された、LGBTQ+の存在と多様性を祝福し広く周知するイベント『東京レインボープライド』。最終日である2024年4月21日は、毎年恒例の『東京レインボーパレード(以下:TRP)』が開催され、過去最大となる60梯団が参加。渋谷から原宿を経由して再び代々木公園に戻るコースを、約1万5000人が歩いた。
1:開催期間2024年4月19日~21日のうち、初日は強風により中止となった。
HIVに関わる差別・偏見、AIDS発症、新たなHIV感染――。
3つの0(ゼロ)を実現し、日本のAIDS流行終結を目指す
日本では(まだ)唯一、HIVの陽性者たちが先頭を歩く「#UpdateHIV」フロートでは、「『HIVに関わる差別・偏見を0(ゼロ)に、AIDS発症を0(ゼロ)に、新たなHIV感染を0(ゼロ)に』という3つの0(ゼロ)を実現することで、日本のAIDS流行終結を一緒に目指そう!」というメッセージを2023年から発信し続けている。また、下の3つの啓発を通して、“常識”だと思われていることが多いHIVに関する情報を、適切にアップデートすることも大きな目的の1つだ。
U=U (効果的な治療を続けていればHIVは感染しない)。
HIV、性感染症の検査を定期的に受けること。
PrEP (曝露前予防内服)の存在。
「#UpdateHIV」は、2011年の設立以来HIV感染症・エイズ(以下:HIV)の予防啓発を中心に活動している「特定非営利活動法人akta」と、HIV陽性者あるいはその周囲の人たちのサポートをする「特定非営利活動法人 ぷれいす東京」、「特定非営利活動法人 日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」、HIVに関して正しい知識の普及啓発、予防・診断・治療等の研究の支援などを行う「公益財団法人エイズ予防財団」の、4つの市民団体が2022年から運営している。
各団体はそれぞれ2000年代からLGBTQ+主体のプライド・イベントおよびパレードに参加し、連携もしてきたが、厚生労働省の外郭団体らとともに検討を重ねながら、あらためて「#UpdateHIV」の旗の下に集結した。
また、日本におけるプライド・イベントの規模拡大に伴い、現在は市民団体に加えヴィーブヘルスケア株式会社やギリアド・サイエンシズ株式会社、MSD株式会社といった製薬メーカーも協力団体として名を連ねている。
photo :Rody Shimazaki
10年以上にわたる、フロートづくりのノウハウが集結
輝く太陽が初夏を思わせる昼下がり。いよいよTRPが幕を開け、梯団が代々木公園の渋谷口を出発した。
「#UpdateHIV」のフロート車には、前述したドラァグクイーンのラビアナ・ジョローと、GOGO※2のTENが立ち、同じく搭乗者であるDJ YUMEのサウンドに合わせて、参加者や沿道から手を振る人たちに呼びかける。
「We are!」
テーマカラーである赤を服装に取り入れ、思い思いのメッセージを書いたプレートを手にした250人が続いて応答する。
「Positive!」
陽性者も陰性者も、例えいま落ち込んでいる人もこう声を上げる。
「We are!」「Positive!」
「Update!」「HIV!」
こうしたコール&レスポンスは、2023年に搭乗したドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダが用いた手法だ。
二人の呼びかけに、いつしかフロートは笑顔であふれていた。沿道の人たちも、手やレインボーカラーの旗などを振り返す。参加者たちと一緒にレスポンスの声を上げる人や、音楽に合わせて踊る人も散見された。
パレードが規模拡大を続ける中で、予算を割き、凝ったフロート車を出走させる企業もあれば、フロート車を使わず隊列だけの梯団も増えている。「#UpdateHIV」フロートは、コストを抑えながらフロート車を準備し、メッセージを伝えるためにフロート車と参加者の一体感を大切にしてきた。
たとえば、沿道にいる人たちやフロートの状況を考慮し、フロート車に積むスピーカーを2台から4台に増やし音圧にも配慮するなど、フロートの最後尾まで音楽を届けて一体感を向上・維持する工夫も随所に見られる。これらは、フロート車を運転するaktaの岩橋恒太理事長をはじめ、パレード参加当初から10年以上にわたりフロートの屋台骨を支えてきた、約10人のスタッフたちに蓄積されたノウハウによるものだ。
2:クラブイベントなどのステージ上で、象徴的な衣装と踊りを通して会場を盛り上げるダンサー。
ラビアナ・ジョロー(写真1)とTEN(写真2)のコールに、参加者のみならず沿道の人たちからもレスポンスが返る。
photo : Shimazak(1,3,4)、hiroshi miyata(2)
明確なメッセージを当事者が自ら“実感”として伝える
「言葉がダイレクトに心に届いて、感動から何度か泣きそうになりました」
TRPが終着点にゴールすると、ある参加者がこう気持ちを聞かせてくれた。また、「#UpdateHIV」のオープンチャットには、TRP当日にフロートの陽性者エリアで歩いていたAさん(仮名)からも声が寄せられた。
Aさんは、「7年前、無知と無関心と偏見にまみれた状態で僕は自らのHIV感染を知」り、その直後は「自分があまりに忌まわしく、HIVという言葉を口にすることすら憚られ」たと綴る。
「(前略)そんな僕も、自分にこびりついたスティグマ(らく印、偏見)を少しずつ取り剥がす機会にその後は恵まれました。そして、最初は小さな声で、徐々にはっきりと、やがては開かれた場所でも『HIV』という言葉を口にできるようになりました(中略)。
今回のパレードでも、僕は自分の中のスティグマの残滓を砕ききる思いで叫びました。今回のフロート企画にこうした『利用方法』が想定されていたかわかりませんが、声を出す場をつくり、維持してくれている団体・企業の皆さんには深く感謝しています。
そして、こうした行動を自分一人ではなく他の皆さんと共にできたことを心から嬉しく思っています。それは、思いを共にする皆さんの存在が僕にとって計り知れない勇気となったからであると同時に、一人では伝えきれないメッセージを道ゆく人たちに実感として伝えられたと確信しているからでもあります(後略)」(一部抜粋)
HIV当事者による発信を大切にしているフロートだが、メッセージが明確だからこそ、様々なバックボーンから参加経験がなく、引き続き不参加を選択する当事者たちもたくさん存在する。彼らの声が寄せられることも少なくない「#UpdateHIV」は、すべての当事者を思いながら声を上げ、彼らとともに歩くつもりで、明日もその一歩を踏み出し続ける。
photo :Rody Shimazaki
text: 本間文子(作家・編集ライター)