エピソードは、個人の体験談です。
このエピソードには性感染症に関してコミュニケーションしたときに強い言葉で非難された体験談が含まれます。
梅毒感染エピソード①「セフレや恋人に伝える?」(30代後半 男性・on PrEP) 篇・後
March 16, 2023 Modified: 2024.09.24
- 書いたひと
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松竹梅雄(しょうちくうめお)※仮名 さん
30代後半・男性
前回のあらすじ
友達がすなるPrEPというものをしてみむとて、するなりした結果、15年以上かかったことがなかった梅毒にかかってしまった俺。レギュラーセフレ陣などに連絡をしたところ、9割は「ありがとう!検査行ってくるね!」系の返事で救われたのだが……
前編から読む
それにしても梅毒である。
15年以上、時折油断こそすれそれなりにセーフをやってきた結果、性感染症未経験というわりと珍しい(と思う)結果を得てきた自分にとって、梅毒は「吉原炎上の西川峰子の死因」くらいの、かなり遠い病気だと考えていた。
しかしPrEPでゴムなしへのハードルが下がってしまった結果、1年くらいであっさりと感染してしまった。後から考えれば、ものすごく増えているという時期だったらしい。ふつーのゲイとしての平均的(?)な行動をとり、平均的な結果(?)を得た、言ってしまえばありきたりで、大したことのない話だ。
性交渉レギュラー陣に感染報告連絡をしたときに、レギュラーセフレ陣の9割は、「ありがとう!検査行ってくるね!(その後結果報告)」というカラッとしたムーブをしてくれて、俺はかなり救われた。
たかが梅毒!!!
……されど梅毒
その中で、一人だけ気がかりな相手がいた。
前回は書かなかったが、最初に連絡したのは自分の恋人だ。2年くらい前にハッテン場で出会ってレギュラー化し、半年前に付き合うことになっていた。
彼は過去「梅毒かも、、、」「クラミジアになった、、、」といった性感染症マターをそれなりに持ちかけてきたことがあり、もちろん自分は「連絡ありがとう!すぐ検査とか行くな!」「治ったらまたバンバンやろうな!」とできるだけフラットに対応してきた、つもりだった。
梅毒に限った話ではないが、病気が発覚すると、ヘコむ。可能性があることがわかっただけでも。そういう時に、「俺にうつしたのかよ!」みたいな反応でなく、なるべくフラットに接してくれた方が、俺は救われる。自分もそうしていたのは、誰かにそうして欲しかったからなのだと気づいた。彼もそうでいてほしい、と思いつつ、もちろん一番に連絡をしたのだが。
……言わなければよかった。
「大事にしてるからこそ言わなきゃ!」という気持ちがベースにあった俺だが、彼に伝えたことを心底後悔した。もし次に別の病気がわかったとしても、言うのを躊躇して、言わないという選択肢をとってしまうかもしれない。そんな冷たくて、厳しい、反応だった。
あの頃のLINEを見返せばいいのだけど、今も見返す気にはならないので、どんなことを言われたか覚えていることを書いていこう。
- とりあえずどこの誰から“もらったか”しらないが、ちゃんと全員に言えよ“もらいたくないから”
(そんなことは当たり前のことですでに対応済みである。しかし、“罰”のつもりで言ってきていることがわかるため、俺は随分傷ついた) - もう病気が治ってもお前と生でしない。むしろセックスをしたくない。
(別にそれは好きにすればいいのだが、最初にゴムを外したのは彼だったので納得はいかない) - 次に性病をもらってきたら、“うつしたほうが”治療費を払うことにする
(どっちが先になったか?それは「先に検査したほう」だから正直者が傷つく悲しいゲームの始まりだ)
徹底的な被害者意識、そして俺が「穢れた存在だ」とあの手この手でわからせようとしてくる言動の数々に、先人たちが性感染症で背負わされたどでかい十字架(いわゆるスティグマ)のことを思う。みんな、こんな辛い目にあってきたのか。
彼の気持ちを考えれば、まあシンプルに他の男とやっていたことが可視化されて不愉快だということもわかるのだが、彼のTwitterの裏アカを見れば他の男とバンバンやっていることは一目瞭然だ。「潜伏期間などを考えれば、この梅毒だって君から“もらった”可能性もあるかもしれないよ」などと思ったが、火に油だろうからじっと耐えていた。
俺は恋人が病気になったらどんな病気でもまずは多分心配すると思う(浮気されてはらわたが煮えくり返っていたとしても、マナーの問題としてそうするように務めるだろう)。
そもそもセックスをそれなりにやっていれば、ゴムつけてようがなんだろうがリスクはつきまとうのだ。
ぶっちゃけ、大した話じゃない。
でも、この人にとってはそうではない。
目の前が真っ暗になった。
病気になった人間にムチを打つような人間が、自分の恋人なのだ。そして、こういう考えをする人は決して少なくないのだろう。
とはいえ、病気に対しては淡々とことにあたるしかない。検査機関から紹介された病院に通い、治療を始めた。1日3回の投薬を、約1ヶ月。治療が効果あったかどうかの確認検査を1ヶ月ごとに2〜3回行い、なにごともなく治療は終了した。彼の方も一応パートナーの感染だからと初回の検査で陰性でも抗生物質を処方されたようで同じ頃に服薬を済ませ、その後の間をあけた二度の検査でも陰性だった。
一度言われた言葉は消えないし、俺の心の傷は残り続けるが、“もらってなかった”ことで彼の怒りはおさまったようで、そのうち俺たちはもとに戻った。別れなかったんだ? 自分でも不思議に思うよ。
そうそう、ついこの間、彼がすまなさそうに言ってきたのだ。
「淋病になった……」と。
(もしかしたら自分から感染した可能性もあるよな)と思ったのだが、彼があまりにもしおらしくしているので、「ああ、自分が“もらってきた”」という確信があったのだな、ということがわかった。
俺はすぐに言ってやったよ。
「教えてくれてありがとう、俺もすぐ検査行くから、治ったらまたバンバンやろうな!」
終わり






PrEPについて
PrEPは、HIVに感染していない人が抗HIV薬を予防として服用し、セックスでのHIV感染を防ぐ方法です。コンドームなどと並んで有効な予防方法のひとつですが、注意すべき点もあります。
- 正しい服薬方法を守る
- HIVに感染していないことをPrEP開始前も開始後も定期的に検査をして確認する必要がある
- PrEPでHIVを予防することができるが、梅毒などの他の性感染症を防ぐことはできない

HIVマップ制作チームからのコメント
梅毒について
梅毒は、症状も診断がつくタイミングもさまざま。感染力が強く、性器の接触など幅広い性行為で感染します。抗生剤による治療方法が確立されていますが、何度でも感染するやっかいな性感染症です。自分が治癒しても、セックスの相手に検査・治療を受けてもらわないと、再び相手から感染する「ピンポン感染」という現象がコミュニティ内で連続して起きる可能性もあります。
現在、日本では梅毒が大流行しています。